PEOPLE BOOKSTOREに通う学生、植田彩乃です。
3月に大学を卒業し、4月から同じ大学で研究生になりました。研究活動を行う者という名目はあっても、その立場を明快に説明する言葉はありません。大学生でもなければ大学院生でもない、もちろん社会人でもない。1年間の猶予が与えられた何者でもない期間。
そんな私が2023年を振り返ろうとしたとき、真っ先に思い浮かんだのは10月にアイルランドを一人で旅したことです。エジプト空港で5時間待機して乗り換え、合計21時間のフライトを経てたどり着いたアイルランド。ずっと来たかった場所でした。
その時のことを思い出しながら今年を振り返ってみようと思います。
アイルランドにいる間はホステルやB&Bを渡り歩き、日々街を移動していたため荷物はなるべく軽くしたかった。だから持ってきた服を捨てながら旅した。母からもらった服、外国通販で買った服…どうでも良くなってどんどん捨てた。空いたスペースには新しい街で買った本やお土産を入れられる。背中が軽くなると気分も明るくなってきた。
旅では宿泊や食事という生存に必要な行為のために人と話さなければならない。
そうすると、相手が自分の中に入ってくる。境界線を飛び越えてくることが起こる。
予想外のことが度々起こるので、ますます話さないといけなくなる。
1人なのに1人じゃない。
歩いていても街は話し声や弾き語り、パブから流れてくる音楽で満ちていた。
慣れてくると心地よくて、気付いたら来る前よりも元気になっていた。
ゴールウェイで教会守りをする岩のようなお爺さんはステンドグラスに描かれていることの意味を一緒に考えてくれた。イニシュモア島の防波堤で眠っていた時は通りすがりのカップルに心配された。青リンゴ1つしか食べるものがなかった夜、宿の人が声をかけてくれて一緒にご飯を作って食べた。日本に帰る日は空港行きのバス停がわからなくて20人くらいに道を尋ねたけど、誰も断らずに話を聞いてくれた。
そのおかげで誰かに頼ることが前よりも自然にできるようになった。
アイルランドが何の問題もない楽園というわけでは決してない。
街では物乞いをする人々があちこちに座を敷いていて、ドラッグやアルコール中毒になってしまった人の姿も珍しくない。日常の中に彼らも一緒にいる。高速バスに乗り遅れそうになりながらダブリンの街を走っていた時、何かはわからない四つ足の動物の肉を骨からほぐしとっていた女性とその背中にいた子供と目が合った。
けれど、たった2週間の旅行では明るい発見の方が多かった。
知らない人同士でも当然のように挨拶や声掛けをすること
食事やティータイムにお金と時間をかけることをいとわないこと
街中に座る場所が沢山あってゴミ箱もすぐに見つかること
鼻ピアス率が高いこと(かわいい)
色々な体型やファッションの人がいて、それが素敵で、それでいいということ
日本でもそうだったかもしれない。
でも、新鮮な目で周りを見てみようとしなかった自分に気がつかなかった。
旅先で出会った忘れられないものの中に、アイルランド現代美術館(IMMA)で行われていた展示「Coming Home Late: Jo Baer In the Land of the Giants」がある。(https://imma.ie/whats-on/jo-baer-in-the-land-of-the-giants/)
Jo Baerはアメリカ出身の画家だが、アイルランド北部ラウズ県に残る旧石器時代の遺跡をモチーフにした作品を描いている。巨石の連なりの真ん中に吸い込まれそうな真白い空間がぽっかりと空いているような絵。見つめているとどこか遠くの、けれど見覚えのある風景が浮かんできた。絵の前で立ち尽くしていたら閉館時間が来ていた。
空白の時間が長くあって落ち込むことがあっても
自分が夢中になっていたことに気がつくことが何度かあって
「なんか大丈夫だな」と心から思えるようになった。
昔からよく思い出す光景がある。
朝の保育園、窓から陽の光が差し込む教室には自分以外誰もいない。
知らないうちに同じ組の皆は朝の会のためにホールに行ってしまったらしい。
椅子や机は隅に片付けられていて部屋の中心には空白地帯が生まれている。
しばらくそこでその光景を眺めていた。さみしくて、明るくて、きれいな時間だった。
研究生として不確定なまま過ごした2023年は、その時と少し似ている気がします。
2024年もまだまだ名前がつかなくて不安定な自分と付き合っていくと思うけれど、また旅をしたいと思います。みなさんもどうか良い一年をお過ごしください。
植田彩乃
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