当初予定していたミニライブが出来なくなったり、当日配布するレジュメやCDRを制作するなかでボク植田を含めた4人でやり取りを重ねて、トーク・イベントその日を迎えた。このメンバーで話が出来るなら、そりゃ当然面白くなるだろうと思っていたけれど、果たしてその予想をかるく超える熱のある時間になった。後半からは、聞き手として遊びにきていた、ライターの北沢夏音さん(当店の守護天使!)を加えての約2時間半。みんなの話を聞き、自分も話しながら、ボクは興奮していた。最後の最後には、おどろくほどに気持ちが高ぶっていた。ちらちらと確認していたお客さんも良い顔をしていて、きっとボクと同じような気持ちなのだろうと想像出来て、嬉しくなった。
あの日の話をようやく、ここで公開出来る! 文字起こしに尽力したPEOPLE BOOKSTOREの中村に感謝を! 本当にありがとう!
長い記事になるけれど、最後まで楽しんでほしい。そして、あなたの心に火が灯れば、それにまさる喜びはない。
***
やけのはら(以下や):はじめますかね。トークイベントということで、みんなで喋ろうかと思います。僕、やけのはらと言います!よろしくお願いします。
VIDEOTAPEMUSIC(以下V):VIDEOTAPEMUSICです。よろしくお願いします。
beipana(以下b):beipanaです。
植田(以下植):植田です。よろしくお願いします。
や:一応説明させてもらいますと、僕は音楽を作ったりしてます! ビデオ君、あなたはどういうことをしている人なんですか?
V:映像と音楽を作ってて、自分ではCD作品を出しているんですけど、色んなミュージシャンのミュージック・ビデオ、VJなどもやっています。
や:ベーパナさんもミュージシャンということで、僕たちは基本的に音楽に関わっているので、音楽の話が多くなるかもしれないんですけど、今日のテーマはなんでしたっけ?
一同:インディペンデント!
や:そうですね。まあ、一応お題があるといいかなということでインディペンデントなんですけど、インディペンデントってなんですか? “独立”ということですよね。“独立している”。“独立している”ということは どういうことなんですかね。独立独歩......。
b:“自分でやっている”ということですよね。
や:ほかと切り離されていると。
V:独りで立っている。
や:今言ったようなことを、音楽の話に置き換えますとですね、音楽をCDで出したり、レコードで出したりするときは、自分で出す人もいれば、どっかの会社や組織、メジャー・レーベルから出す人もいるし。今日配布した資料(※1)にも書いたことですけど、メジャー・レーベルとよく言われるものには、決まりというか一応の基準があるみたいですよね。欧米ではBIG4と呼ばれる4大企業「ユニバーサル」「ソニー」「ワーナー」「EMI」。 当時の大きい電気系の会社の 中のレコード販売部門だったところが、メジャー・レーベルと呼ばれていたと。 で、それ以外のものが、基本的にインディー。
V:レコードプレイヤーを売るために大手の電気会社が作ったレコード・ソフト部門、それがいわゆるメジャー・レーベルと言われるものの起源なわけですよね。
や:徐々にそこがキーワードにもなるんですけど、テクノロジーの進歩ともインディーとメジャーというものは関わっていてですね、昔はレコードを録音する、そしてそれを販売するというのは大変だったわけですよ。今は、音楽も自宅で作れるんですけど、何十年も前だと、それはなかなか容易に出来なかった。すごい設備もいるし、コストもかかる。だからどうしても、そういうことをやるには大きなお金やノウハウがあったりするメジャーと呼ばれるところから、みんな契約して出していたと。だけど、テクノロジーも時代も変わってきて、インディーにやっと辿り着くわけですよ。そういう大きな会社に所属しなくても、 自分で音楽を作ったり、それを世に発表したりすることが出来るような時代になりだした。
V:機材が安く手に入ったり、技術が色んな人をもとに降りてきたりして。インディー時代の始まりですよ。
や:ここからが今日の僕たちの本題ですよ、今までのは説明です。まず、インディーは好きですか?
V:好きですね。
や:好き? 結構好き?
V:はい。
や:ちょっと訊きたいんですけど、多分今日ここに来てくれた方ってのは、このお店のことを知っていたり、僕たちの誰かのことを知っていたり、音楽が好きだったり、インディーという言葉を聞いたことがあったりすると思うんですけど、音楽を聴く立場って、買うときって別にメジャーだったりインディーだったり思わないですよね? 思いますか? 好きかどうかですよね。そうなんですけど、そういうクオリティで出来るってのも、インディーの人は色々頑張っているんですよ。なかなか大変なことを。インディーの良さもあるけど、大変さもあるし。今日は色々みんなでインディーってことはどういうことかってことを、考えられたらと思います。この〈PEOPLE BOOKSTORE〉っていうお店もTSUTAYAとかとは違う、独立系の、インディーのお店なんですよね。で、こういうお店の良さだったり、今日は植田さんがもちろんいるので、そういう“インディー・ショップ”の面白さだったりもね、聞き明かしていきたいところです。インディー・ショップですよね、ここは。
植:そうですね、はい。
や:なにか考えとかあれば、聞かせてもらってもいいですか?
植:僕の意思がモロに出ちゃっても良いんじゃないかと思うんですよね。今の日本の、チェーン店や大きな流通の会社だったり、お店だったりは基本的に個人の意思が極力出ないように、会社としての意思を全体に出すように、個人の意思は抑えてという状態があるとしたら、このお店をやっている意味は僕の趣味思考が思いっきり出せることというか。まあ、それでスベったら、 それはそれまでです。というようなことは、面白いかなと思ってやってます。
や:いまさら訊くんですけど、植田さんはここのお店を始める前は、ほかの本屋さんで働いたりとかはあったんですか?
植:一切ないですね。
や:そうなんですか! へぇー。本が好きだった人?
植:本は、好きです。でも、僕より好きな人はもっといっぱいいると思います。
や:本が好きな若者で、書店勤務経験もなかったですけど、ここを始めたんですか?
植:そうです。
や:ほかの古本屋さんや本屋さんで働かれてたんだと思ってました。
植:僕はCD屋に長くいたんですよ。音楽業界の方がどっちかっていうと経験はあったんですけど、こういう古本屋、本屋に関しては修行というかアルバイト経験もゼロです。
や:じゃあ、結構大変ですね。始めたときって細かいノウハウもわからないし。
植:今だってわかっているとは正直言えないっていう、大きな声で言っちゃいけないかもしれないですけど。今でも試行錯誤ですね。本の買取が増えてきてるんですけど、査定して、値段付けて、買い取っていて、厳密に、もしかしたら、 大きなルールがあるのだとしたら、そこに乗っ取っているのかどうかは、僕は......。
や:そういうルールってあるんですか? BOOK-OFFとかだったら基準とか決まりとかあるんでしょうけど。
植:今、僕がやってるのは、昔なにかのネットか本で見た有名な古本屋さんが言っていたのを、ああ、そうなんだと真に受けてやって、そっからまあ、だんだんと査定の回数が増えるごとに自分なりの値段の付け方がわかってきたというか、最初の頃はAmazonとかで検索しちゃって、相場を見ちゃうんですよ。そうすると、自分の根本的なエネルギーがどんどんしおれていくというか、これ、オレがやんなくてもいいんじゃないかって。
や:なんかいい話ですね!
植:そういうのに直面して、だったらこれもういいや、高いと言われようが安いと言われようが、オレが値段を付けてしまえ! と。例えば、ネットで見れば1500円で買えるのを2800円付けてドーンといっちゃえみたいな。でも、そういう本も買ってくれる人がいるんですよね。あ、これちょっと高く付けちゃったけどいいすかなんて言っちゃったりするんですけど、良いんですって言ってくれるから、あ、嬉しいな、と。
V:そういう人は、そのもの自体を、値段じゃなくて、このお店から買うということや、その日出会ったということも含めて買ってる。
や:でも、セレクトショップってまあそういうことですよね。そこで見付けた本を今度BOOK-OFFで安く探そうとかいう世知辛いことを不況だと思う人もいるのかもしれないけど、そうじゃなく思ってくれる人が来てくれたり、買ってくれたりするってことですよね。勝手に植田さんの気持ちを代弁すると、そういう風に物事や、本屋さんだけじゃなくてもいいですし、直接的な値段じゃなくて、付属する「選ばれセレクトされて並んでいる」っていうことの対価だったり、 そういうとこの意味をわかってほしいと本当なら思っているんじゃないのかなあ、と僕は思ってみたんですけど。
植:そうですね。でも、セレクトはもはや出来ないというか、僕の知識もそうだし、自分一人では処理出来ない量の本が入ってくるようになってきて、その中からもちろん僕が面白そうだなって本はピックアップしていくからアレなんですけど。話が変わってきちゃうかもしれないけど、僕の、植田浩平の、趣味嗜好はもちろん入っているんですけど、それよりも、もっとこう、自然に本に出会ってもらえる場を、そっと後押しするくらいの感じに変化してきているのかもしれませんね。
や:面白い話ですね、容れもの的な感じですか。セレクトで自己の趣味嗜好を表現するというよりは、植田を通して......。
植:そうですね、PEOPLEを通してですね。
や:出会いだったり、色々なきっかけになれば、と。
植:きっかけの一つになったら、なれたらいいなあと思って。
や:今、僕がお話を聞いてて興味深かったのは、おおまかに全部、いま言ってたようなことって、インディーの理念みたいなことだと思うんですけど。それで、僕たちが音楽を作るとするじゃないですか。そうすると、それが良くも悪くもということもあると思うんですけど......、例えばすごい極端なものだったりしても「これが僕の音楽です」ってことに一応なるじゃないですか。でも、お店で、直接的にその古本を売るとかの方が、もうちょっと買う人がいてなんぼというか。そういうところがちょっと違いそうですよね。もうちょっと、 なんというか、買う人がいるのが前提というか。
植:そうなんですよね。そこが未だに僕も明確な答えが出せないっていうか。僕が読みたいかどうかは、もはや関係無いんですけどね。
や:じゃあ、全然好きじゃないって本は並べるんですか?
植:それこそ100円均一棚に出すとか、そんな感じに。
や:あれ! そんなこと言っていいんですか(笑)? 100円のコーナーにあるのは評価しない本ってことですか? 俗本ですか!
植:話すたびにボロが出ている気がして......、なんか汗が......。駄本じゃなくてですね、色んなところで買える本というか。
や:あ、そうですね。意地悪なツッコミをしてスミマセン! それ的確です。ほかでもある本は100円コーナーに。
植:そう。あと、これ100円で買えたら嬉しいよねって本がちょこちょこあったりとか。
V:100円だから出会いやすくなるというか。
植:そうそう。中島らもさんの文庫本とか100円で買えてなんぼというか。もちろん高く付けてもいいんですけど。なんか、それくらいの良い意味での雑多な本というか。
や:しょっぱなから、すごくインディー理念的な話をしゃべっていただいたと思うんですけど、そういう、大きな枠やシステムや決められた「こういうのじゃないといけない」ってことじゃなく、自分なりのやり方や形で出来るっていうのが、とりあえずはインディーの面白さだったり良さだったりするんじゃないですかね。
b:そうですね。あと、メジャーの定義の話もしたんですけど、世界的にインディーの定義っていうのもあってですね。配布資料の文章とも近いんですけど、 基本的には、マスなセールスでの成功を目指すのではなく、実験的なことをしたり芸術的な自由度の高いものを出して、小規模でも熱狂的なファンに受け入れてもらうというのがインディー・レーベルであるっていうのが一応定義としてありますね。
や:そうですね。もちろん音楽を売るってことは商売なので、そういうところと、 もちろん創作や表現っていう側面もあったりして。表現ってのは別に100人に好かれる表現が、100人の内1人にしか好かれない表現より一概に良いと言えるわけじゃないってところが面白さでもあるわけですし、でもそう言ってると商売は成り立たないと。そういうところのバランスの中で、インディー・レーベルってのが、たくさんの人に聴かれて、ものすごくいっぱい売れるもんじゃない創作をしている人の受け皿になっているってことがこの資料の1ページ目に書いていることなんですけどね。ただ、個人的に思うのは、規模感は関係ないのかなってのは思っていて。モータウン(Motown Records)とかもあるし(※2)。だから結局、独立独歩ってところが大事っていうか。
V:有名どころですけど、モータウンっていうのもインディー・レーベルだったわけですよね。
や:そうですね。だからなんて言うのかなあ、大きいのを目指すとか、商品としてたくさん稼ぐってことが第一じゃないにしろ、例えばモータウンみたいなやり方のインディーってのもあったし。
b:この3人で事前に話し合ったときに、インディーにも2種類あるねって話になって、僕がさっき言った定義みたいなのもあれば、自分で始めるしかないって環境から始まったもの。つまりマイノリティですね。黒人とかそういうことですね。
や:モータウンのときは、まだ黒人の差別とかもあったり、黒人のミュージシャンが才能があったとしても日の目を浴びる機会が少なかったから。モータウンってのは、アメリカや世界に黒人の音楽を発表したくて作ったんですよね。
b:もともとそれは、実験性とか規模が小さくても良いとかじゃなくて。
V:社会的な事情でインディーズじゃなきゃ出来ないことが当時あったってことですね。
や:資料にメモしたレーベルでも、そういうのは多いですよね、そういう意味では。このフライング・ダッチマン・レコード(Flying Dutchman Records)(※3)ってのもロニー・リストン・スミスとかギル・スコット・ヘロン という詩人の方とかがジャズのレーベルって言っていいんですかね、すごくこう、ギル・スコット・ヘロンさんがフライング・ダッチマンから出しているレコードとかもビートニクというか、本当に、パーカッションの上にこう、政治的なメッセージとかをしゃべっているっていう。あんまり、エンターテイメントな音楽じゃ全然ないっていう。あとは、パンクのインディー・レーベルとかも、大人がやらないなら、自分たちでやろうっていうか。まあ、あと、例えば、モータウンのときにそういう美学というか精神があったかわからないですけど、パンクの時代になると、自分や自分たちの友達や、住んでる場所でもいいですし、その身の回りのことを自分たちでやるのがかっこいいんだというか良いんだっていう。
V:表現がメジャーかマイナーかっていうよりは、そういう経済のシステムとして自分達で作って自分達で回すっていう。
や:美学というかね。D.I.Y.ですね。
b:DO IT YOURSELF。
や:自分のことを自分でやれ、と。かっこいいですね。そういう美学とD.I.Y.っていうのはいつぐらいからそういう観念って出てきたんですかね。
V:パンクですよね。
植:僕らは音楽が好きだからパンクと結び付くけど、ジョイフル本田とか、日曜大工と結びついている人の方が多分、現状では多いんじゃないのかなと思いますよ。
b:東急ハンズにも書いてありますもんね。そうではない精神性としてのD.I.Y.。 例えば、FANZINE(※4)はただ本屋さんで売るんじゃなくて、自分たちで全部印刷して中身も書くという、精神としてのD.I.Y.ということですよね。
植:で、さっきベーパナさんがインディーにも2種類あるって言ってた後者の方。 自分でやるしかないからやるっていう。誰に頼まれたわけでもなく、自発的に。自分の中から溢れてしまうものを形にすることは、そうするしかなかったっていうことなんですかね。FANZINEとか手書きで書いたりとか、コピーしたりとかっていう・・・。
や:あのー、僕ね、急に学んでしまいましたよ! 今、インターネットで検索しただけなんですけど。しかも、調べたらね、これスゴイ面白い話! 第二次世界大戦でドイツ軍の激しい空襲を受けたロンドンで、戦後に破壊された街を自分たちの手で復興させる国民運動が1945年にイギリスで広まり、スローガンとして 「D.I.Y.=DO IT YOURSELF」が生まれた。へえーーですね! そうなんだ! 破壊された街を自分たちの手で復興させる! 素晴らしい話ですよ。『はだしのゲン』的な。 なんかDO IT YOURSELFって自分の手でやるって意味じゃないですか。だけど、この由来でいくと、持たざるものが、するんですね。
植:いいキャッチコピーですね。
や:イギリスで始まった運動だから、パンクの人達には、直接的な由来とかに影響受けてどうとかはわかんないけど、なんか繋がりというか、D.I.Y.カルチャ ーってのはあったのかもしれないですね。いい話でしたね。自分たちでやらなきゃいけない人達が色々始めたケースもあるって話から。
b:自分たちでメジャー同等の成功を目指すってのを自分たちでしか始められない人っていうのがモータウンとか、日本でいうとエクスタシー・レコード(※5)とか。
や:いろいろレーベルを調べたなかで、モータウン・レーベルってのは、みんな本当に音楽好きな人だったら聴いたことがない人がいないくらいすごく歴史に残るリリースをいっぱい残したんですけど、ファミリー企業として始まって10年でものすごく大きなレーベルになったって意味ではすごいんですけど、もうひとつ、日本のレーベルで気になったところで、エクスタシー・レコードがあって。で、ですね、一度 脱線するんですけど、あの、ちょっと前まで住んでた家の真向かいに駐車場があるんですよ。そこにね、デカイ機材車みたいなバンドワゴンがあって、なんか機材とかを積み降ろしたりしてるのをよく見たの。だから、近所にバンドマンが住んでるんだって思ってたのね。ある日、ウチの前を歩いていたら向かいのマンションのゴミ捨て場にチラシが大量に落ちてたのね。で、なんかさ、漁るでもないよ、見えるってかさ、それで繋がったの。多分あの機材車で積み降ろしをしているバンドマンのバンドだと思って、ちょっとスケベ心っていうか、一枚持って帰ってみて検索してみたの。今バンド名思い出せないけど、全然知らないバンドで。で、どんな感じなのかなと思って検索してみたらまあ、インディーズ・バンドで、ヴィジュアル系らしかったの。ライブ・スケジュール見たらAXとかでやってて、AXは東京のライブ・ハウスで2000人くらい入る、それなりに人気がある人じゃないと出来ないような場所で。それでびっくりして。つまり、なにが言いたいかというと、ヴィジュアル系のD.I.Y.は凄いってこ となんですよ! ジャンルが違うとはいえ、全然僕らが知らないようなバンドで もガンガン客入れてるっていうか。それで、そういうバンドが実は沢山いるみたいで。これは持論だからはっきりとした数字はわかんないけど、一番D.I.Y. というか、インディーとしてたくましく、力強く、そして物事を回して、みんなハッピーにやってるカルチャーは実はヴィジュアル系なんじゃないかと思って。
b:そうですよね。で、そのルーツがエクスタシー・レコードという。
や:エクスタシー・レコードっていうのは、X JAPAN、元XのYOSHIKIさんが設立したレーベルで、これもなんかさっきの話と通じるというか同じで、当時Xをリリースしてくれるレーベルがなかったと。で、さらにかっこいいのは、そのリーダーのYOSHIKIさんが、プレス工場、印刷工場、出版社、写植工房、レコード 店などを直接訪ね歩き、レコード制作から販売ルートまでを一から学んでいったんだと。これ、すごいよね!
b:それで、実家の呉服店を業務変更してレコード会社、まあレーベルを作ったと。これはすごいですよ。まあ その体育会系イズムと、黒人とでは事情は違いますけど、その成功してやるってマインドは。
V:当時ヴィジュアル系はあんまり認められてなかったんですかね?
や:ヴィジュアル系ってまだ言われてなかったんじゃないかな? ヴィジュアル系って言葉も90年代以降だよね、確か。むしろ、ヴィジュアル系の色んなルートはエクスタシー・レコードから出来ているというか、開かれているというか。
b:そうですよね。すごいですよね、このハングリー精神ゆえのインディーっていうの。それで結構日本で成功しているっていう。
や:でさ、自分も含め、ここにいるみんなは多分インディーが好きだからさ、インディーが良い良いばっかりの話になるのも嫌だなって最初思ってたの。インディーということを慎重に確かめたいなと。でさ、インディーの良くない面みたいなこともあるにはあるじゃん、きっと。
b:内輪ノリとか。
や:このエクスタシー・レコードでのYOSHIKIさんってのは、内輪ノリとは気合いがちがうというか。これだけのことを自分の足で......。
b:やってるっていうのはすごいですね。それで、僕は学生の頃、LUNA SEA(※6)っ てバンドがすごく好きだったんですけど、たまたまラジオを聞いていたら SUGIZOっていうギターの人がラジオをやってて、かけてる曲がインストのヒップホップとかで。LUNA SEAもエクスタシー・レコードから出たバンドだったと。
や:だってLUNA SEAのSUGIZOさんは今のXのメンバーでしょ。
b:で、LUNA SEAもやりつつ、JUNO REACTORっていうトランス・テクノの多国籍バンドのギターもやっていますね。LUNA SEAというバンドもインディー精神ってのがYOSHIKIさんから引き継がれていて。
や:僕はちょっとLUNA SEAに詳しくないからわからないので、教えてください、LUNA SEAのインディー精神を。
b:メジャーデビューして色々あって解散して、2010年に復活したんですが、復活後に東京ドームでの無料ライブをしたという。
や:すごい! 無料ってことは全部持ち出しってこと?
b:わからないですね。でも当然メジャーなんですけど、無料ライブをやって、尚かつインディー時代のLucacyという名義でインディー時代の曲をメインに演奏した。さらに黒服っていうですね、いわゆるヴィジュアル系の本当のはしりのドレス・ コードでしか入場させないという。
や:とんがってますね。
b:そういう精神性が未だに気になっちゃう。
や:その無料ライブ、黒服ドレスコードってのは、俺たちはインディー精神を忘れてないぞっていう。
b:実際にそう言っています。そういう精神も忘れてない。多分、ルーツとしては、YOSHIKIって人の影響が大きかったっていうか。大きな規模でもそういうことをやれる礎をつくったのはYOSHIKIって人の力なんじゃないかなと。
や:だからね、ほんとにね、僕なりの印象論になっちゃうんですけど、やっぱりエクスタシー・レコードだったり、YOSHIKIさんとかのヴィジュアル系ってのは、僕は音楽ジャンルとしては全然詳しくないんだけど、 そういう目線でちょっと調べたりすると、やっぱり本当にすごいと。サークル活動じゃなくて、 独立独歩でみんなハッピーになる。そういうことをちゃんとやれてるというか。
(次回に続きます!)
(※1)
「今日配布した資料」「インディーズとは、ある業種においてメジャー(大手)に属さず、独立性の高いもののこと。 大手(メジャー)に対して中小のものをマイナーというが、その マイナーの中でもメジャーと資本関係や人的交流などを深く持たず、系列化さ れていない独立性の高いものを指す。日本の音楽業界におけるインディー(インディーズ)とは、日本レコード協会加盟のいわゆるメジャー・レーベルのレコー ド会社と対比する形で、同協会に一切加盟していない独立系レーベルのことをさす。音楽は基本的にはアート(芸術)の一分野であり、難解な音楽、実験的な音楽、ルーツ・ミュージックなどのニッチな音楽を志向するアーティストも数多く存在する。しかし、これらの音楽はその評価とは裏腹に商業的な成功には恵まれ無いことがほとんどであり、資本の最大化を主眼としているメジャーの音楽会社においては、当然ながらこれらの売れないアーティストがその傘下で音楽を作ることを許されるのは稀有な例となる。よって、これらのアーティスト はアンダーグラウンドにおいてインディー・レーベルに所属し、その創作活動を続ける場合が多い。これらの背景から、インディーは「メジャーへの踏み台」としてではなく、「ニッチな音楽を志向するアーティストが存在し得る場」として、一つの唯一的な地位を有している。」(当日配布した資料より引用/作成・やけのはら)
(※2)
「モータウン」 モータウン(Motown;Motown Records)とは、アメリカ・デトロイト発祥のレコードレーベル。自動車産業で知られるデトロイトの通称、「Motor town」の略。 1959年、ベリー・ゴーディ・ジュニアによって設立、ソウルミュージックやブラックミュージックを中心に据えて大成功した。1972年には本店をロサンゼル スに移転、1993年よりニューヨークに本店を構えている。2011年より現在はユニバーサル ミュージック グループの一部門、アイランド・デフ・ジャム・ミ ュージック・グループの傘下にある。1950年代からミュージシャンとして活動 していたベリー・ゴーディ・ジュニアがジャズのレコード店を開いたのが始まり。しかし店は不振により、閉店に追い込まれる。一時は負債の返済のため、 デトロイトのGMの組立ラインで働かざるを得なくなるが、それでも音楽に対する情熱を絶つことなく、自身で書いた曲をR&Bシンガーに売り込んで回る。その甲斐あって、R&Bシンガーのジャッキー・ウィルソンらに認められ、自身の曲が とり上げられるようになる。意を決したゴーディは「黒人向けのR&Bではなく、白人層にも自分たちの音楽の良さを理解して欲しい」という思いから、銀行から600ドルを借金し、モータウンレコードを設立する。1961年にゴーディ自らが発掘した、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの"ショップ・アラウンド ("Shop Around")"が全米チャートの上位に送り込まれたのを皮切りに、その後もダイアナ・ロスが在籍していたことで知られるシュープリームスなどにより、 次第にヒット曲を重ね、大型レーベルへと成長してゆく。 ファミリー企業のインディペンデント・レーベルを、10年で大企業にしたという意味で、ゴーディはアメリカン・ドリームの体現者である。しかも、黒人としてそれをやり遂げたことは当時として画期的だった。(当日配布した資料より引用/作成・やけのはら)
(※3)
「フライング・ダッチマン・レコード」 このレーベルから複数のアルバムを発表したミュージシャンには、歌手レオ ン・トーマス (Leon Thomas)、サキソフォン奏者ガトー・バルビエリ(Gato Barbieri)、編曲家オリバー・ネルソン(Oliver Nelson)、サキソフォン奏者ト ム・スコットや、ピアニストのロニー・リストン・スミスなどがいた。ギル・ スコット=ヘロン (Gil Scott-Heron)は、フライング・ダッチマンのレーベルから、デビュー・アルバム『Small Talk at 125th and Lenox』や 『Free Will』 を含む3枚のアルバムを出している。(当日配布した資料より引用/作成・やけのはら)
(※4)
「FANZINE」 〈fan〉と〈magazine〉が由来。同好の士が賃金を出し合い、自主的に制作・発行する、内容や体裁が自由な同人誌や冊子などの印刷物のこと。「“ファンジン”というのは、SFやコミックの文化圏から生まれた言葉」と、ばるぼら氏が『アイデア』367号での「日本のZINEについて知ってることすべて」のなかで語るように、パンク・カルチャー以前から存在している自主出版文化。現在ではそれを略して「ZINE」と呼ばれる。
(※5)
「エクスタシー・レコード」 株式会社エクスタシー・レコード (Extasy Records)は、日本のミュージシャンで あるYOSHIKIによって1986年に設立されたレコード会社およびインディーズレーベルである。1985年、インディーズで活動していたX(現在のX JAPAN)はレコードのリリースを目指していたが、レコード会社からのオファーがなかったため、自らレコードをリリースすることになった。レコードを発売するための知識が全く無かったリーダーのYOSHIKIは、レコードのプレス工場、印刷工場、出版社、写植工房、レコード店などを直接訪ね歩き、レコード制作から販売ルートまでを一から学んでいった。レコードの制作費用や売り上げの管理、税金の申告には会社組織が効率的であるとして、休眠状態となっていたYOSHIKIの実家の呉服会社を業務変更して1986年4月に「エクスタシー・レコード」が設立され た。同時にXの「オルガスム」をリリース。インディーズを扱うレコード店に直接電話で掛け合い、店に置いてもらった。また、レコードの宣伝広告に関しても、雑誌社や版下屋を直接訪ね歩いて掲載に漕ぎ着けた。(当日配布した資料より引用/作成・やけのはら)
(※6)
「LUNA SEA」 RYUICHI(Vo)、SUGIZO(Gu,Va)、INORAN(Gu)、J(Ba)、真矢(Dr,Pa)による日本のヴィジュアル系ロックバンド。1989年に現メンバーで結成し、1992年メジャーデビュー。2000年に終幕を宣言し活動を休止したが、2010年に活動再開。インディーズ時代は“狂気”という意味の「LUNACY」というバンド名だったが、一つの意味に縛られず、音楽的にも深く、広くという思いから「LUNA SEA(月と海)」に変更した。https://ja.wikipedia.org/ wiki/LUNA_SEA