僕の片手にはいまも感覚のない指があるんだ。指でコントロールできないから、叩きかたが特殊で、どうしてもバックビートになってしまう。いまではそのことに感謝してるけどね。僕みたいに叩ける人は、たぶん、ほかにはいないから。(MOCKY Fanbook『MOCKUMENT』より)
先月リリースされた、MOCKY『GOOSEBUMPS PER MINUTE VOL.1』(以下、『GOOSE〜』)を気に入ってよく聴いている。針を落として、まず思い出したのが、上記の言葉を含むインタビュー「モッキー自身が語るモッキー」(聞き手は松永良平)。そして、数年前の来日公演で見た、ドラムを叩くときのモッキーの顔である。笑顔でステージ上のメンバー、フロアの聴衆を見渡しながら刻むビートはファンキーでリズミカル。その場で生まれる音を浴びるのがライブの醍醐味だとしたら、その欲求をしっかりと満たしてくれる、個性的な演奏だった。
自分は『GOOSE〜』をなぜ、こんな風に好むのか。そのために近作『A DAY AT UNITED』(2018)から『OVERTONES FOR THE OMNIVERSE』(2021)と順番に針を落としてみた。なるほど、改めて聴いてみると面白い。特に前者は、いわゆるモッキー節とは異なる音像を感じさせて、今更ながら感心した。後者もまた良くできた作品なのだけど、代表作『SASKAMODIE』もしくは『KEY CHANGE』に入っていても不思議でない佳曲が多いのかなーという印象だった。どちらもアナログ盤、45回転。なんの表記もない『OVERTONES〜』はきっと、33回転で聴いてしまう人も多いだろう(ここに、何らかの狙いがありそうな気もする)。
さて、肝心のレコードに針を落とすと、頭抜けてファンキー! ブラック・ミュージックを思わせる、ドラムとベース。コーラス。過去2作をラウンジ仕様とするならば、本作はダンスフロアへの気配りも効いている。聴いているうち、だんだん身体が動き出す。この感覚は何だっけ……と記憶を巡らせると、あ! そうだ! ライブでのモッキーだ。だから、自分は喜ばしく微笑ましい気分になるのか。
ここに刻まれているのはソウルとファンクを基にした、ラウンジ・ダンス・ミュージック。太い低音と軽やかな音色とが調合された、モッキー博士の発明品。流せば、きっと部屋の空気は軽くなる。音楽に合わせて踊ってしまえば、心も弾む。気軽に聴いてみてほしい。
(*)『月刊つくづく』2023年1月号「音楽コラム」より転載