11月30日、火曜日。宿泊をともなう移動が多かった今月(間違いなく開店以来、最多)。来月の遠征予定は皆無である。ほぼ書き込みのないカレンダーを見てホッとする。毎週の定休日は近場の映画館に行こうか、友人の店に顔を出そうか、レコード屋か古本屋に足を運ぼうかと考えるだけで楽しくなる。
書籍、音源に入荷あり。通販等のお問い合わせは、お気軽に。
目が覚めたのは大船のビジネスホテル。5階の大きな窓からのぞむ朝焼けは格別だった。昨日までの展示に合わせて販売させてもらっていた本とレコード、カセットテープなどでリュックはパンパン。されどトートバッグは一つ余っている。〈ディスクユニオン お茶の水店〉に寄り道して帰ることにする。
デヴィッド・グリスマン、ジョン・サイモンのレコード等々を安価で見つけて、購入。その頃には背負ったリュック、二つのトートはすごい重量になっている。歩くのも一苦労。なのだが、心身が〈ディラン〉のキーマカレーを求めている。少しでも並んでいたら諦めようと足を運ぶと、すぐに入れる。窓際の席を選んで荷を下ろし、注文をする。
キーマカレー、大盛り。途中から食べ終わるのが名残惜しくなる。だから、自分にしては丁寧に噛み、ゆっくり味わう。やはり、ディランのキーマは特別だ。自分には、ここでしか満たせないものがある。
重たい荷物を抱えて、どうにかこうにか東京駅。高速バスが出発してすぐ熟睡していた。
11月28日、日曜日。届きたての新刊『頁をめくる音で息をする』、『古本屋的!』はどちらも「本の雑誌社」からの刊行物。同社の既刊にして、当店の心の書である『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(北沢夏音)、『おかしな時代 「ワンダーランド」と黒テントへの日々』(津野海太郎)もながく販売させてもらっている。
なんとなく気になったり、ぱらっとめくったページにピンとくる単語や人名、心を動かす一節を見つけたならば、ぜひ手にしてほしい。新刊であれ、古本であれ、そのものを見つけたときに逃さないようにしてみると、驚くような発見があるかもしれない。
理屈ではなく感覚をしんじる面白味。書物のなかにエイッと飛び込む、一瞬の決心。たとえ失敗だとしても、自分なりに選んでみれば何かしらを得られるはず。
今日は店番太郎の日曜日。いつも通りに開けているので、ご都合に合わせてご来店ください。
小西康陽『暦の上では未来の音楽』が届きました。
第5巻「なにもかも飽きてしまった」で完結したかと思われた、小西康陽・監修『レディメイド 未来の音楽シリーズ CDブック篇』になんと、クリスマス号が急遽追加! 入荷分はすべて小西さんのサイン&メッセージ入り(「あけまして、メリー・クリスマス」とか)。通販対応はしないので、店頭にてお求めください。
販売価格は2200円(税込)。同シリーズの第3号「わたくしのサン=ジェルマン=デ=プレ」(この盤のみ選曲は三浦信さん)も一部、在庫しています。
“本号は、何度目かのステッカーをベースとした「レッテル/ラベリング」研究の一環であり、やっていることはスタッフパスのそれである。(…中略)本号は『つくづく』vol.3で購入いただいた号の付録とする以外に、出会い頭、イベント等で配布する。”https://tukzuk.stores.jp/items/617fc0ad54ddd844633f92fd
こういう商売はいいなと思えることもある。それは古本屋ではなく、飲食店など他業種だったりする。店の素朴さや美しさだったり。身のこなし方がかっこいいと憧れる。稼げたらいいという商売は嫌だ。(七月十八日((日))
11月26日、金曜日。店を開けてすぐ、来てくれたのはマブダチ(=マイメン)のKさん。門前仲町で酒場〈ほどほど〉をいとなむ先輩だ。普段会うときはほぼ酔っているので、素面だとやや恥ずかしい。ちょこちょこと話をしながら、本を選んでくれる。筑波大学の短歌会を主催する学生さんのあと、しばらく間が空いて、本の雑誌社から新刊が届く。
届きたての新刊『頁をめくる音で息をする』、『古本屋的』を手にしてニンマリしていると、河合浩さんが来て伊那市〈赤石商店〉に預けていたもの、車中に忘れていたものを届けてくれる。それと同時に来てくれていたお客さん、先日音源を買ってくれた人だと気がつき、お礼をいって話をする。その直前には、DJトモ兄さんが手製ジャズ・ミックスを届けてくれた。
これが今、記憶に残っている昨日のこと。三日空けてしまったので不安があったけれど、なんて事なく来てくれる人がいて安心する。移動することの面白み。いつもどおりに店を開けることの安心感。どちらも大事だなあ、としみじみと思う。
今日明日、明後日と通常営業! ご都合が合えば、ご来店ください!
11月21日、日曜日。今週はいつも以上に細かく記録をしているからか、店のことを心配されることが増えた。気にかけてくれるのは、本当にありがたい。だけれど、こちらはまあ、いつも通り。日々、開けている分には手ごたえも感じている。人が来たり来なかったり、本や物が売れたり届いたりを繰り返して、もうすぐ丸9年。このまま、できるだけ長く続けていこうと思っている。
このハミングバーズの音源のように、のんきではあれ、音は太い。そんな感じでやっていけたらいい。理想はレゲエ、スカってよりもメント、カリプソってことなのかな。とにかく、自分はジャマイカ音楽が大好きなのだ。
今日は13時から19時まで開けています。明日、明後日(22日、23日)は連休です。
11月16日。出張、定休日をはさんで、久々の通常営業。15時の開店直後にお客さんが二組、つづけて来てくれて安心する。それぞれのお会計時にちょこちょこっと話をする。その後、ピタリと客足が止まる。Wi-Fi環境もない。外はどんどん暗くなっていく。図書館で借りてきた正津勉『つげ義春 「ガロ」時代』を読む。
18時半頃に友人たちが来るまでに、ほとんどを読み終える。
*
いうならばこの年回りのつねなのであろう。ノイローゼの俘虜みたいになりがち。考えるなにもかもすべて、ただもう暗くとめどなく、面をあげられないしだい。しばしばひどく自閉しがちであった。そんなときつげ漫画がいつもそばにあった。−正津勉「あとがき」
11月17日。開店と同時に旧知の方がご来店。お久しぶりの挨拶を交わしたのち、正津勉のあとがきを読むと、「ノイローゼの俘虜」という言葉が目に入る。ああ、まさしく。二十台前半の自分はノイローゼの俘虜だった。たくさんの人に迷惑をかけた。自己中心的かつ臆病で、エネルギーだけ持て余していた。意味もなく酔っ払い、前後不覚に。正体をなくしては、翌朝のはげしい後悔に苛まれていた。
全力で時間を無駄にした。あの日々は、もうかえらない。
*
11月18日。朝、図書館で借りてきた『開高健の本棚』を手にとる。開高自身の書斎風景、肉筆原稿などのヴィジュアルと選りすぐったテキストとで構成されていて、読みやすい。
全集や文庫版など、一定規格のサイズとデザインにおしこめられた本からは“匂い”がたちにくい。むしろそれは“匂い”で評価するよりは、家具や置物の一つとして評価すべき筋合いのものかと思われる。−開高健「続・読む」
ここで書かれる、“匂い”。こうした感覚を共有できる人が増えたらいい。携帯端末経由の共感、評価めいたものではなく、自身の感覚、嗅覚に正直に反応したらもっと自由になれるんじゃないかな。道具のように外付けできるものではなく、内側から湧き出してくるものを大事にしたい。
店では、ほとんど本は読めず。友人たちと話す時間が長かった。
*
11月19日。『開高健の本棚』を通読して、こんな記録をしている自分が猛烈に恥ずかしくなる。もっと本を読まねば。
*
生き方のスタイルを通してお互いに伝えられるまともさの感覚は、知識人によって使いこなされるイデオロギーの道具よりも大切な精神上の意味をもっています。−鶴見俊輔「ふりかえって」
11月20日。朝、鶴見俊輔『戦時期日本の精神史 1931〜1945年』を読み終える。本編最後の一文が心に響く。「この本がものを考える手本として教えるのは、生きること、書くこと、考えることの、呼吸の間合いである」とかたる、加藤典洋の解説までふくめて大事にしたい。
11月19日、金曜日。自主制作の短編小説集『世界はいつも』を直接納品しに来てくれた、オオクマシュウさん。それと同時に幾人かのお客さんが来て、100円の文庫本を中心に買っていってくれる。その後、つくばに住む絵描きのナツナさん、カトウシンペイが来てからはシュウさんも交えて映画、音楽、文学に関して意見を交わす。
その後、夕方過ぎからはしばらく静か。そこから、〈千年一日珈琲焙煎所〉の大坪さん、青野さんがほぼ同時に来てくれて、長野県の情報交換。その後にもう一人、本を買っていった人がいた。閉店時間を過ぎてから、壁をとおして聴こえるギターと歌声。細野晴臣「住所不定無職」を歌っていたのは、隣の店長土田くん。
正確ではないが、これがぱっと頭に浮かんだ昨日の記録。大体、毎日こんな感じ。でもまあ、まったくしずかな日もあるから、昨日は出入りが多かったと言えるのかもしれない。
今日も15時から20時まで開けています。通販などのお問い合わせはお気軽に。
11月16日、火曜日。週はじめ日曜に葉山出張、昨日の定休日は知人を訪ねに益子に行った。その場、その場で出会ったもの、ピンときたものを購入していくと出費がかさむ。ただ、どれにも再会できる確証はない。そりゃあ迷う。潤沢な資金など、あるわけないから。だけれど、エイヤっと買ってしまえば、ともに長い時間を過ごすことができる。
良い、悪い、そうでない。その3パターン以外の感情を有するには、それなりの時間が必要だ。そのものの価値が定まっていないときこそ、購入時には勇気がいる。でも、単なる情報のやり取り以上の交換こそ、ゆたかだと思う。言語化、数値化しがたいものごとに触れるのが、やっぱり面白いんだよなァ。
今週はすべて通常どおりの営業。週明け22日(月)、23日(火)は連休です。
11月14日、日曜日。大阪北浜の〈FOLK old book store〉が刊行した『肝腎』や関西ローカルカルチャー誌『IN/SECTS』vol.14、文筆家・木村衣有子が編集した『底にタッチするまでが私の時間 よりぬきベルク通信1号から150号まで』などの新刊はじめ、古本にも日々動きあり。買取のご依頼も常時受け付けているので、お問い合わせはお気軽に。
日曜日は、13時から19時までの営業です。明日月曜は定休日。
いよいよ明日から、二週間。JUN YABUKI Solo Exhibition「LIGHT HERE,LIGHT NOW」が葉山のカフェ・ダイナー〈DAYS 386〉で始まります。初日14日(日)と最終日28日(日)には、矢吹純が在店予定。それに合わせて当店もお店の片隅に小さく出店します。ご購入の作品集にサインを入れることもできますので、ご希望であればお気軽にお声がけください。
おそらく、たった今も矢吹君はお店で搬入、設営中。明日は夕方頃まではいられるのかな。滞在時間などの詳細もわかり次第、お知らせします。わたくし植田は13時頃から18時まで、店にいる予定です。近隣にお住まいの方、近くまで出かける用事のある方はぜひ遊びにきてください。
展示会場になる〈DAYS 386〉は木曜定休。11時開店で平日は18時まで、土日と祝日は20時まで開いています(日曜日だけモーニング営業もあり)。特製のドーナツ・スウェットは先行販売中。販売価格は4800円(税込)とのこと。
11月6日。『パリ・キュリイ病院』を読み終えて、本棚から『ユリイカ 総特集・野見山暁治 絵と言葉』を取り出す。「1956年(昭和31年)、陽子夫人と椎名其二氏」と注釈のついた写真を見つける。はじめて目にしたわけではないのだけれど、これまでとは見え方がちがう。
2012年のこの特集号副題は「きょうも描いて、あしたも描いて、90年」とある。そうなると野見山さんはまもなく100歳を迎えるわけだ。『パリ・キュリイ病院』内での「あなた、長生きするわよ」という陽子さんの言葉を思い出す。
午前中、映画を観たのち店を開ける。すぐにお客さんが来てくれて、ホッとする。その後もいいペースでご来店。ちょこちょこと話をする。岡本勝人『ノスタルジック・ポエジー 戦後の詩人たち』を読みはじめる。
*
11月7日。午前中に散髪。昼食後に店に行くと、約束していたエスプラ君があらわれる。開店したての〈Good Near Record〉に寄付するCD、5箱を渡してビールで乾杯。ちょっと話して、それぞれ仕事に。自分の店は、そこから急に人が沢山やってくる。正直、どの人たちがどの順番で来てくれたか整理できない。
その中に混ざって買取希望の本を査定したり、バタバタするうちに夕方。ゆっくりコーヒーをのむ余裕もなかった。当然ながら本は読めず。買い取ったばかりの『Boon』(2014年以降)や『Eyescream』(スケートボード特集号)を拾い読む。
*
きょうはどうもいけないぞ、という日は/いろんなものが哲学者に見える/大きな木/すわっている猫/ちいさい岩山/古い街灯/みんなこちらより思慮ぶかげに思える-北村太郎「路上の影」
11月8日。いつもより長めの電車移動で『ノスタルジック・ポエジー』を読み進める。11人の詩人論のなかでちょうど真ん中に置かれた石原吉郎、北村太郎の両者に関して、筆がなめらか。活き活きと書かれているような気がした。
読んでいる途中で、三木卓『若き詩人たちの青春』を再読しようと思い立つ。
*
11月9日。朝、『ノスタルジック・ポエジー』のあとがきを読んでいたら「本書の出版をこころよく引き受けて下さった小沢書店社長の長谷川郁夫氏」という一節を見つけて、ドキッとする。長谷川郁夫は評伝『吉田健一』の著者、その人ではないだろうか。点と点とが繋がった気がして、あわてて荻原魚雷、内堀弘の本を取り出す。小沢書店にかんする記述があったような気がしたからだ。されど、該当部分はすぐには見つからず。
雨がザーッと降って、ピタッと止んでまた降り出したりと落ち着かない空模様ではあったけれど、お客さんは来てくれた。日曜日に買い取ったスケートボード関連の雑誌、作品集、ZINEの値付けをして、店に出す。
*
11月10日。開店早々、今日発売のKID FRESINO『20 Stop it.』(LP)を求めるお客さん。なんでも遠方に住む先輩に頼まれたとのこと。何とも言えない気持ちを抱くが、店に来てくれたのなら売らないわけにはいかない。その後、店では混乱なし。安心する。
古道具や、冷蔵庫、ガスレンジ、電気スタンド、家改装のために取壊された材木のたぐいが、ネズミの死体と共に、道路わきに、山積になって捨てられている光景は、ニューヨークが、いかに世界最大の消費都市であるかを、如実に物語っている。-篠原有司男「ロフトの大家はマフィヤであった」
その後、合間をぬって篠原有司男『ニューヨークの次郎長』を読みはじめると、これがすごく面白い。荒唐無稽な設定ではあれ、描かれるニューヨークの細部が妙にリアルで説得力がある。序盤からぐいっと掴まれる。
*
11月11日。買い取った本に入っていた、椎名誠・沢野ひとし『私広告』が軽く読めて、ちょうど良い。なかでも「ビールを飲む人生は美しい」というパートがすごく好き。サントリー・モルツの広告に使われたものらしい。椎名さんの短文と沢野画伯の挿絵の軽みが絶妙。ああ、ビールがのみてえなあという気分が増して、黒ラベルを開ける。
それにしても、サントリーのビールは不味いのに(プレ・モルってやつは特に!)、広告には比較的いいものが多い。このねじれがいつも気になる。
*
11月12日。ひきつづき『ニューヨークの次郎長』を読む。店はしずか。来月に予定している催事の告知準備をすすめる。陽がとっぷりと暮れてから、ちょこちょことご来店。音源を中心に売れていく。街の先輩、ヨシユキさんが持ってきてくれた缶ビールをのむ。わいわいと音楽談義。
本日、11月10日(水)発売、KID FRESINO『20,Stop it.』(LP)は店頭販売のみ。予約・取置、通販対応はしておりません。メールでのお問い合わせもご遠慮ください。
スケートショップはただ買い物だけをする場所ではない。いろんな人が集って出会い、そこから新しいなにかが始まる場所なのです。
11月10日、水曜日。日曜日にまとめて買い取った雑誌群、『EYESCREAM』スケートボード特集号、『HIDDEN CHAMPION』、『MINORITY REPORT』の値付けをしながら目を通していると、ついつい読みこんでしまう。規模が小さく、個人的であるほど稚拙で自由。そう定めてしまっちゃいけないけれど、三番手の『MINORITY REPORT』がいちばん面白くて刺激的だった。
自分の店も上に引いた、スケートショップのような場所でありたい。同時に、しずかに本をえらぶ人にも寄り添いたい。まあ、欲張りなのは承知の上。やれるだけのことはやる。極力、人の排除はせず、受け入れる。
その点、開店したばかりの〈Good Near Record〉はより自由な場として機能するんじゃないかと期待している。スエルテ店長の音楽話に耳を傾ければ勉強になるし、その場で踊り出しても、白い目では見られない。ビールものめる。気楽に足を向けてほしい。
11月9日、火曜日。今日から販売を始める音源は、mama! milk『Charade』(2LP)、V.A『ROCKSTEADY PEOPLE』(LP・CD)など。それら以外に、書籍にも入荷・補充あり。棚の位置を変えたり、置く場所を入れ替えてみたり。長く在庫しているものでも、ちょっとしたことで手に取られるものが変わって、面白い。
未明の地震、早朝の雨音に起こされた人は多いでしょうか。店はかわらず開けています。
11月6日、土曜日。開店したての〈Good Near Records〉店長でありDJ、映像制作なども手がけるSUERTE君のミックスCD『Daydreamer -CRUZIN’ MIX -』を買った。これまで積極的に耳を傾けてこなかった種類の音楽。やや強面の雰囲気ではあっても、よくよく聴いていくと、ある種の美意識を感じさせる。それが何か、どういう姿勢か、はっきり言葉にできないのだけれど。
ここ最近、知らなかった音楽を教えてくれる人が増えて、すごく楽しい。それも主にCDってのが面白い。同じ音源でも、レコード、カセットテープでなけりゃ興味を示さない人が増えているのは仕方ない。それが気分であり流行ってことだから。もうちょっと自由に、いろんなものを聴く人が増えたら、どんな風になっていくんだろうか。
今日、明日は13時開店! 気が向いたら、気軽にお運びください。
10月29日。ここ一週間ほど、少しずつ読み進めているのが長谷川郁夫『吉田健一』。二段組みで650ページ弱。折り返しをすぎて佳境に差しかかってはいるけれど、休み休み、進んでいかないと疲れてしまう。
岡本太郎さんに泡沫性があることが、実は世間に一番理解されていないところなんですよね。だから晩年には誤解された。-山下裕二(秋山祐徳太子×赤瀬川原平×山下裕二 鼎談「泡沫・日本・美術」)
その息抜きに読みはじめた、秋山祐徳太子『泡沫傑人列伝 知られざる超前衛』が痛快だった。ひとりずつの逸話が簡潔にまとめられているからか、ページをめくっていくのにストレスがない。読み進めていくほどにコクが増してくる。当時の泡沫芸術家(全身表現家?)たちが営んでいた店がいくつか、新宿ゴールデン街にあったらしい。どれもこれも滅茶苦茶で気になってしまう。
巻末の鼎談も興味深い。上記で語られる「泡沫性」を自分は理解しきれていない。時間をかけて掴んでいきたい。
*
「ケンボー」と河上先生の声が鋭くなる。「句読点を無視しちゃいけないよ。そんなことしてると、おまえ、死ぬよ」「……まあ、河上さん、もうしばらく待ってください」-岡富久子「宵のひととき」(『ユリイカ』1977年12月号)
10月30日。ようやく『吉田健一』を読み終える。終盤に出てきたこのフレーズが印象的。物書きでなければ、句読点と生き死にを結びつけることはできないだろう。この追悼文が掲載されている『ユリイカ』を古書店で見つけて、買っておく。その後、だいぶ前から積読したままの『酒に呑まれた頭』を読みはじめる。
店はひま。鶴見俊輔『戦後日本の大衆文化史 1945〜1980年』を読む。
*
奇妙なことに、怪我らしいものはどこにもない。靴は片っぽ素ッ飛んで、こんにゃくの冷たいのを、背中に背負っている気分だ。片っぽの腕が凍りつく程冷たいので、そこにしつこく巻きついた物を、じゃけんに外して捨てたが、翌朝考えてみると、それがその時失くした腕時計だった。-永井龍男「酒徒交伝」
10月31日。一昨日、図書館で借りてきた『作家と酒』を読みはじめる。これまでに散々と類書があったような本、わかっちゃいたけど読めてしまう。ズルい。店にはいいペースでご来店があり、本を読む時間があまりなかった。遅めの時間に来てくれた友人、太郎くんから嬉しい話を聞く。
*
11月1日。夜、『作家と酒』を読み終える。さくらももこの漫画から坪内祐三、山尾三省と続くあたりからまた面白くなった。赤瀬川原平の「とりあえずビールでいいのか」は名人芸! 筆運びがリズミカル。たむらしげる「終電車」でしめるのは、洒落ている。
*
11月2日。図書館で借りたもう一冊、青柳いづみこ『阿佐ヶ谷アタリデ大ザケノンダ 文士の町のいまむかし』を手にとるも、どうも馴染めない。最近とみに興味が増してきた井伏鱒二に関する話を拾いながら飛ばし読み。そう言えば、『作家と酒』に載っていた「戦後三十年総まくり文壇酒徒番附」によれば、井伏鱒二は東の横綱だった。
*
11月3日。いつもよりはやく店を開けた昨日、荷物がたくさん届いた。長野県伊那市〈黒猫〉の新作、旧作をはじめ個人レーベル〈オクラ印〉の新作もほぼ同時に店に来て、慌てた。つくば市に拠点を移したフリーペーパー『DEAL』を編集する菊池崇さんが最新号を持ってきてくれたタイミングで、退院したての〈つくば食堂 花〉の植田さんがやって来た。あそこが昨日のハイライト。
ふたりは番台に座る店主の存在など眼中になく、何冊かの本を手にして会話を重ねていました。(中略)そして、一冊も買うことなく出て行きました。微笑ましくも複雑な気持ちでした。-片岡喜彦「2011年7月20日」)
遅い時間に店を片付けていて発見した、片岡喜彦『古本屋の四季』を読みはじめると、止まらない。淡々とした語り口、筆致が妙に心地よい。だけれど、小さな困惑もたしかに綴られていて、共感するところもあった。
晴天でむかえた文化の日。店では一文字も読まず。天久保一丁目にできた〈Good Near Records〉のオープニングパーティーに遊びに来た、佐藤拓人と缶ビールのんでいた。そうしながら、お客さんと色々と話す。絵描きのナツナさんも来てくれた。
*
11月4日。二日酔い。今日も知り合いを中心にご来店が絶えず、めいめいと話をする。映画、選挙、音楽、催事、店舗など。今日もしっかり本を読めず。雑誌、図録をひろい読みしていた。
*
11月5日。すごくひま。18時ごろまで来客なし。今朝手に取った、野見山暁治『パリ・キュリイ病院』を読む。辛い。けど、止められない。途中、途中でため息をついたり、外に出て空気を吸ってみたりしつつ、読み進める。
私のたずさえてきた本を読んで当の老人は無然として言った。「ちょうど着物のしつけ糸のように滝川老人がストーリイを追って点点と顔を出しているな。」滝川老人とは椎名其二氏のことである。-野見山暁治「あとがき」
序盤で、滝川老人が椎名其二であることに気がついた。彼の存在に繋ぎ止められてページをめくっていった。夜、寝床で読み終える。
11月23日(火・祝)は長野県伊那市の宿兼食堂であり蔵の映画館、薪風呂、サウナを併設する〈赤石商店〉に出張します。この日は、画家・河合浩さんの個展「THE CASE OF THE 3 SIDED DREAM」の会期初日。当店近くの〈千年一日珈琲焙煎所〉の大坪さんと一緒に、場をにぎやかします。お近くの方、近隣まで出かける用事のある方、ご都合が合えばぜひお出かけください。
より詳細な情報は〈赤石商店〉のホームページでご確認ください。
11月5日、金曜日。朝、郵便局にむかって歩いていると「植田さーん」と呼ぶ声が聞こえて振り返ってみると、ムーちゃんがいた。LKJのレコードをくれた人。自分より年上だけれど、敬意をこめてちゃん付けしている。「デニス・ボーヴェルの『Y in DUB』聴きました?」「聴いた、聴いた。すごいですよね」と声を交わして、また歩き出す。
その後、角をまがったところで、オバサンが太極拳らしき動きをしていた。おわっと一瞬驚くもスローな動きに、力が抜ける。そのまま歩きながら、映画『パターソン』の情景を思い出していた。似たようなシーンがあったような。
いつも通りに営業中。ご都合に合わせてご来店ください。
11月3日、水曜日。文化の日。天久保一丁目の〈Good Near Records〉が今日、オープン! つくばの盛り場、友人たちの集まる〈Club OctBaSS/Bar DISCOS〉の並び、歩いて数秒。つくば駅からも徒歩圏内。周辺には駐車場もたくさんある。市内にあって、車や電車でも行きやすい場所ってのは珍しい。
品揃えはこれから数年かけて良くなっていくと思うので、いきなり過度な期待はせず、長い目で通ってほしい。スタジオ併設ということで、産地直販的な作品が増えていけばいい。あそこでしか買えない、聴けないものがあったら、面白い。
当店、今日も13時(頃)開店予定。お暇があればご来店ください。