「2022年を振り返るときに思い出すであろう6冊」二木信 タイトルどおり2022年を振り返ったときに、自分が思い出すであろう6冊を選んで書きました。最初は5冊にしようと考えていたのですが、書いていくうちに予想外にちょっと乗り始めて6冊になりました。お付き合いください。 ■スヌープ・ドッグ著(KANA 訳)『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』(晶文社/2022年) 2022年の春先にスヌープ・ドッグの料理本にならって友人たちとスヌープ・ディナー・パーティを実際にやりまして、めちゃくちゃ愉しかったです。作った料理は、ゲット・ダ・チップ・フライド・チキンウィングス、タコス、ピクルス。次は、もっと濃い味付けにしよう、というのが唯一の反省点でしょうか。いまのところスヌープ食事会はいちどしか催せていないのですが、アメリカ南部のソウルフード、中南米の料理、スヌープの地元・ロングビーチの定番ブレックファースト、スイーツやカクテルの作り方とレシピも豊富なので機会と時間があれば、いくらでもやりたいのです。ちなみに、料理研究家の土井善晴さんのスヌープにバトルを仕掛けるような、切れ味の鋭い書評が面白かったです。 ■佐藤忠男著『長谷川伸論』(中公文庫/1978年) 近年の日本でも、ギャングスタ・ラップと呼ばれるストリートから生まれる激烈かつ過酷なリアリズム(ときに暴力や犯罪の描写を含む)を有するヒップホップが興隆しています。私はライターとして国内のヒップホップについて取材したり書いたりする任務も多いのですが、そういう白黒を簡単に割り切れない表現や表現者を現在においていかに捉え考え書けばよいだろうかと悩むときがあります。そんな逡巡の時期に読んでヒント(と勇気)をもらったのが、2022年に惜しくもこの世を去った映画批評家が股旅ものというジャンルを生み出した小説家/劇作家=長谷川伸を論じることを通してかつての日本の民衆/庶民とその精神を鋭く考察した本書です。ここで学べたことをひとつ、とても簡略化して書いてしまうと、すべては地続きであるという現実認識です。 ■韻踏み夫著『日本語ラップ名盤100』(イースト・プレス/2022年) ヒップホップということで言えば、1994年生まれの新進気鋭のライター/批評家である著者が、日本語ラップの名盤を100枚(関連盤を含め300枚)を選んだ本書も面白く、刺激的でした。ラップ/ヒップホップという芸術に真剣に向き合い、音を聴いて、言葉を読み解き、そして考え書くことの意義と奥深さをあらためて教えられました。著者曰く「世界は革命されなければならないというのが、私の批評家としての立場だが、現在もしも革命がありうるとすれば、それはヒップホップ抜きには考えられないだろう」。クール。 ■岸本聡子著『私がつかんだコモンと民主主義――日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』(晶文社/2022年) 私は東京都の中野区という地域に20年ぐらい住んでいるのですが、そんな自分にとって、2022年の数少ないかすかなきぼうのニュースは、お隣の杉並区の区長選で岸本聡子さんが勝利したことです。本書はそんな岸本さんが自身の半生を綴った一冊。読むと心が洗われて元気が出ますし、こうした方がお隣の地域の区長になった事実を希望と言わずして何を希望と言えばいいのかと思います。もう一歩踏み込んで書きますと、岸本区長の誕生は、1990年代後半から本格化する世界的な反グローバリズム運動/グローバル・ジャスティス・ムーヴメント以降のラディカルな首長の登場という意味で、すくなくともこの日本では非常に稀か、もしくは画期的なのではないでしょうか。 ■『寝そべり主義者宣言 日本語版』(素人の乱/2022年) 2021年ころから中国で話題になりはじめたという「寝そべり族」のムーヴメント。競争社会に抵抗し、労働や結婚や過剰な消費などを拒絶する若者たちが増加、なんとあの中国共産党も警戒を示したという。そんな中国の「寝そべり族」による『躺平主义者宣言』の日本語版(躺平が「寝そべり」という意味らしい)。これが、寝そべりという緩いイメージに反してかなりハードコアな宣言の書。しかも誰が書いたのか不明のまま印刷され中国各地にばら撒かれたという。そのあたりから本気度が伝わってきますし、「寝そべり」が字義どおりの「怠け者」の価値観を闇雲に肯定するものではないというのもうかがえます。むしろ、既存の秩序やルールから逸脱して生きてやる、というものすごい覚悟と気合いを感じます。 ■『DAWN N°2 SUSTAINABLE FUTURE』DAWN/2022年) 2022年11月20日、PEOPLEの植田さんとGOOD NEAR RECORDS / OctBaSSのSPRAくんと企画し編集長の二宮さんをつくばに招き(私の地元もつくばなのです)、雑誌『DAWN N°2』の刊行記念パーティを実現できたことはこの上ない悦び。関わってくれた人たち、遊びに来てくれた人たち、みなさん、ありがとうございます! KRAITのDJを浴びて友人たちと狂喜乱舞できたのも至福の体験でした。
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