2026/01/04

ハーポ部長が2025年を振り返る


『本のコミューン 対抗文化のイヴェント記録と通り過ぎた旅人たちの風』、略して『本風』。


2025年は自分がつくった本の風に乗って、いろんな〈世界〉を旅した一年だった。2026年は午年。「馬を放つ」(by 野本三吉)ことで一体どこに辿り着くのだろう。

1月

『本風』の編集作業に没頭。昨年末で長年運営に関わった下北沢のブックカフェ「気流舎」が閉店。わけあって最終営業日(大晦日)に「気流舎コレクティブ」を脱退。なのでぼくは最後に気流舎を去ったメンバーとなった。タイトルが長くなってしまったが、「通り過ぎた旅人たちの風」という言葉を付けたのも、この12年間の共同運営(店としては17年)で、さまざまな事情で去っていった運営メンバーやお客さんのことを思い出したからだ。その中には死者も含まれている。ワケアリで辞めたのに、閉店後すぐに場の追悼アンソロジーを作るなんて自分でもどうかしてると思いつつ、同時に、なんだか不思議な強い力に動かされているのを感じていた。

2月

正直、編集がわからない。校正がわからない。出版社などで編集者として実務経験を積んだことがない。ZINEのようなものを遊び半分で作っているうちに、なんだか作れるようになってしまった。これも素人監督をサポートするベテランカメラマンのような存在のデザイナーがいてくれたおかげだ。今回、デザインを担当してくれたnuの戸塚さんは商業出版でもひっぱりだこの売れっこデザイナーで、年度内に刊行すべき本のデザインで大忙し。こちらが投げた球がなかなか返って来ないゲラのキャッチボールが続くと、こっちはこっちで待ち時間に変な欲が出てきて、録音していたイヴェント音源をどんどん新しく文字起こししてしまう。気づくと当初の倍以上のボリュームになって、挿入したい図版もどんどん増えていく。戸塚さん、ごめん! 

3月

完成を急ぐ理由は、チェンマイ行きの航空券をすでに買ってしまっていたから。その日までに刷り上がって、完成品をチェンマイでの取材でお世話になった方々に渡したい、というあまい素人考えがあった。作戦変更。チェンマイで校正作業をしよう。ほぼあがってきたゲラを印刷し、その紙束と赤ペンを持って、いざアナログ・ノマド。行きの飛行機で信じられないくらい集中できたけど、やっぱタイに着くと怠けちゃうね。せっかくならチルなヒッピーたちがだらっとしてそうなパーイまで足を伸ばそうと、726つものカーブがある山道をミニバンで蛇行してたら猛烈な吐き気が。やばいやばいとスマホの中のオフラインで聴けるコンテンツを探してその音に全集中。去年のぼくの誕生日に気流舎で行われたロバート DE ピーコのライヴ音源でなんとか苦境を乗り切る。『本風』最後の旅エッセイにこの音源のQRコードを載せようと思いつく。やっぱり旅をするとどんどんアイデアが降りてくる。移動は偉大だ。

4月

ついに『本風』完成、1,000部自宅に納品される。部屋がインク臭い本の束で埋まってしまい、この風景が自分が望んでいた「千のコミューン」か、と愕然となる。早速、ページを開いて仕上がり具合をチェック。入稿前に何度も確認した巻末付録のロバート DE ピーコ『ライヴ・アット・気流舎』のQRコードをスマホで読み込んでみる。えっ!エラー? なんと10日後には有料に切り替わる詐欺まがいのサイトにひっかかってしまい、数万円払わないと復活できない事態に。頭真っ白、顔真っ青。千部の本を人質に身代金を要求されている状態。払うのは悔しいし、このままだと欠陥商品になってしまう。このピンチをチャンスに変えるためには、上からステッカーを貼って、もともとこれがやりたかったんですよ感を醸し出すしかない。ボーカルひろしくんの絵の画像をネットから拾ってきて、その上にQRコードを載せて、急遽ステッカー業者に発注。一冊一冊、千冊これから貼っていくのか....

5月

ISBNコードを付けてないし、作った本を自分で売っていかなければならない。幸い前著の『アマゾン始末記』のときに飛び込みで開拓した店舗が全国にあり、再び連絡をしたり、また飛び込みで営業したり。今回は有難いことに全国45店舗に扱ってもらっている。本屋に卸したからって、そのまま自動的に売れるものでもない。大阪、京都、東京各所でイヴェントをいくつも企画し、話題作りを自己演出。しかし、自己宣伝をし続けるのはなかなか辛い、誰か宣伝してくれないかな、と思っていたときにPEOPLE BOOKSTOREさんが好意的に紹介してくれて嬉しい。レゲエの記事を面白がってくれたみたいで、これは源担ぎにGREENROOM FESTIVAL 20th Anniversaryで来日するYG・マーリーを拝みに行った方がいいんじゃないか、入場料めっちゃ高いけど、あわよくばお母さん(ローリン・ヒル)一緒かも、と思い立ち、いざ横浜へ。気づくと最前列で、ボブ爺の「バッファロー・ソルジャー」の曲に乗って客席に降りてきたYGと手が重なる。ジャー・ガイダンスなスキンシップあったけど、お母さんはいなかった。

6月

タイ・バンコクを拠点に活動するレゲエバンド、シーラチャーロッカーズ来日。とにかく最高のライヴパフォーマンスだった。タイのレゲエって勝手にゆる〜いイメージ持ってたけど、完全に覆された。演奏はタイトでソリッドでダビー。そんでもってタイの伝統音楽を融合させた独自のサウンドなわけだから、大ファンになってしまった。「音楽を通して人々の心に変化をもたらしたい」と語るフロントマンWINの人間力も大きい。彼らの来日ツアーの様子がYoutubeにあがっているのでぜひ見て欲しい。日本のレゲエシーンはヒッピーシーンと繋がっている部分があり、彼らが長野の大鹿村 「八角堂」でライヴしているのはその縁だろう。ぼくも一度、正月に八角堂でのレゲエ新年会に参加したことがあるけど、メンバーが「まるで親戚が集ったみたいだった」と感動するのも納得の同じトライブ感。タイで大鹿村みたいな拠点をつくることが彼らの夢らしい。

SRIRAJAH ROCKERS - SHOWCASE IN JAPAN 2025 (Video blog)

https://www.youtube.com/watch?v=3Pk-UGbQ0Cw&t=1122s

ele-king の野田努さんに『本風』を献本したところ、紹介してくれるというので大喜びで「お願いします!」と返事したら、「じゃあ、書いて」とのこと。またまた自己宣伝をすることになってしまった。

対抗文化の本

https://www.ele-king.net/columns/011815/

7月

タイはチェンマイの地に再び降り立つ。今回は『本風』刊行記念イヴェントをやるため。なぜにチェンマイで刊行イヴェントをやるのか(日本語の本なのに)、それはただやりたいから。頭の中に浮かんだアイデアをどんどん現実化するゲームをただ楽しんでいるだけ、なのだ。2度のチェンマイ旅でできた縁を頼りに、旧市街のホステル〈Deejai Backpackers〉のヤード(庭)で「ヴィジョン・オブ・チェンマイ」というギャザリングを開く。共催はCCC(チェンマイ・チル・クラブ)というチェンマイ在住のチルな邦人女子会? 大変お世話になりました。そのときの様子を「チェンマイの磁場」というタイトルで『なnD 12』に寄稿したので、読んでみてください。

『なnD 12』

https://nununununu.net/2025-1209-2134-4691/

8月

Youtubeで札幌の高校生バンド、テレビ大陸音頭を見てハマる。フジロックに出た直後に、寿町フリーコンサートに出演するというので、いざ横浜へ。元気いっぱいの高校生のシャウトとディストーションに、前列に座っていた寿のご老人方が耳をふさいで、顔をしかめるも、孫の活躍を見守るような、あたたかい眼差しも感じる。翌日には豊田にいて、「橋の下大盆踊り」。ノマド映像作家ヴィンセント・ムーンが、自身が記録した世界中のトランス儀式の映像と音をライヴ・リミックスする「ライヴ・シネマ」が急遽ブッキング。友人で『本風』にも旅エッセイ(「風に吹かれて」)を寄稿してくれた平田博満くん(テリー・ライリーの弟子になってしまった!)がいろいろとアテンドをしている模様。ヴィンセントのプレイの前に一緒にティー・セレモニーしたら、なんかいろんなことを思い出す。ぼくがシャーマンの治療歌「イカロ」に強い興味を持ったのは、10年前に吉祥寺バウスシアターでヴィンセント・ムーンのシピボ族シャーマン映像を爆音で体験したからだった!

ハーポ部長『アマゾン始末記』(品切れ、古本で探してください!)

https://ayacari.base.shop/items/81039357

9月

夏らしさを求めて、東京オペラシティで開催された「東京音頭 –TOKYO ONDO–」に行く。BON DANCEのDJ陣は、ALTZ / COMPUMA / IORI / SEI / YAMARCHY / YO.AN。歌手のhouさんが「いきんや節」を歌い、 ベリーダンサーのNOURAHさんがフリースタイル盆踊りを舞う。「未来がただ暗いなんて思わされてないで、笑っておくれよ」という歌詞にグッと来る。セックス・ピストルズのポール・クックの娘で、再結成後のザ・スリッツにも参加していた、UKラヴァーズ・ロック/レゲエ・シンガーのホリー・クックが、なんと家から徒歩5分のライヴハウスでライヴをしに来てくれる。近所に出現したロンドンに興奮。

いきんや節 IKINYA-BUSHI / hou

https://www.youtube.com/watch?v=ltp7YP1v7Hw

Hollie Cook - Superstar / Sugar Water (live at Freedom Sounds Festival 2023)

https://www.youtube.com/watch?v=ZQ4zWCyWn4w

10月

『本風』の最終ページにインタビューを掲載したモリテツヤくんの汽水空港10周年フェス「一斉着陸」に本の出店をするために遠征。鳥取空港までの飛行機代が高いんで、ジェットスターのセールで高松空港まで行き、そこから旅をしながら鳥取の会場まで着く、というビートニクなプランだったが、本が死ぬほど重いってことをすっかり忘れていた。郵送で20kg先に送ったので、手持ちで運ぶのは40kg。高松から始まる同行二人のブック遍路。岡山の友人のアテンドでなぜか修験道のお寺を巡ったり、日本第一熊野神社で「セロトニン御守り」なるものをゲットしたり、寄り道をしながらもようやく会場に辿り着く。着陸直前にスーツケースの車輪が重さで曲がってしまう事故が発生し、無理矢理引きずって何とかゴール。着陸地点からは、本当に素晴らしい時空間が広がっていた。本屋主催のフェスだけに、本がたくさん売れ、帰りは大阪の「マヌケ出版社」の車で新大阪まで送ってもらい、そこから優雅に新幹線で帰宅。

寺尾紗穂 Live in 汽水空港10周年フェス 「一斉着陸」

https://www.youtube.com/watch?v=4nlh34fmc-4

11月

最近毎年行っている「武蔵野はらっぱ祭り」へ。夜は渋谷に行き、ロブ・スミスの来日公演。1980年代末からスミス&マイティとして活動、マッシヴ・アタックのデビューにもかかわり、ピーター・Dとのモア・ロッカーズではジャングルを、そして2000年代後半より、ダブステップへとフォーカスしたソロ名義RSDで活躍するブリストル・サウンドの要のような人物。オールで踊って、そのまま寝ずにまた「武蔵野はらっぱ祭り」2日目に戻る。芸術の秋は歳を忘れて、めっちゃ行動的。後半はダブ尽くしで、川崎の「more!!! DUB DUB DUB」では「SUSHI AUDIO WORKSHOP」 と 「PRESSURE HIGH SOUNDSYSTEM」のサウンド・クラッシュならぬ、サウンド・ジャミング(2つのシステムが共同で音出し)を堪能。そして久しぶりのマイティ・マサ。人生最大の低音を浴び、音圧で何か邪気が祓われたような気になる。渋谷では、現代に蘇ったオープンリールの名機でON.Uサウンドを体感する「OPEN REEL DUB Listening Event」、六本木の「DUB SESSIONS 20th ANNIVERSARY」では、エイドリアン・シャーウッド、マッド・プロフェッサー、デニス・ボヴェルのダブ御三家による三者三様の音の直接レッスン。デニス・ボヴェルは、『本風』の石田昌隆さんの記事でもキー・パーソンとして取り上げられているUKダブ界の超偉人。

12月

1日からインフルエンザを発症し、39.5℃まで熱が上がる。意識が朦朧としているなか、何をとち狂ったか、新シリーズが開始された『ストレンジャー・シングス5』を一気見。悪夢がずっと目の前で繰り広げられていて、アヤワスカで一番しんどい時を思い出した。治ってもしばらく虚無状態。とりあえずネットフリックスを解約しようと思い立ち、その前に観ておきたいコンテンツはチェックしておこう、と今でもまだ『ラヴ上等』など、どうでもいいコンテンツをだらだら観続けているありさま。去年の今頃は、『本風』の編集に没頭し、創作意欲に満ち満ちていたのに、今年はこのていたらくぶりだ。冬至の日に思いたって、創作活動開始。今年刊行された神本秀爾『ラスタファーライ入門: ジャマイカと日本で人類学しながら考えたこと』を読んで、入門だけじゃ物足りなくなり、自分で上級者向けのラスタ本の翻訳を始めた。Horace Campbell『Rasta And Resistance: From Marcus Garvey to Walter Rodney』。英語の勉強を兼ねての試作だけど、私家版にするだけでは勿体ないんで、翻訳権のこととかよくわからないけど、来年はこれを何らかの形にしたい。30日に、アーバン・ラスタ・スタディーズの仲間と「TOKYO DUB ATTACK 2025」で一年の邪気をダブ祓い。帰ってきて寝て起きて、大晦日、今これを書いている。



『本のコミューン 対抗文化のイヴェント記録と通り過ぎた旅人たちの風』

企画・編著 ハーポ部長

デザイン 戸塚泰雄(nu)

発行所 文借社

2025年4月20日発行

四六判334ページ

定価 2,000円(税別

詳細

https://ayacari.base.shop/items/104200844

真木悠介『気流の鳴る音』とのセット販売

https://ayacari.base.shop/items/129897236



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