2023/08/07

金沢出張記④

8月6日。早く起きられず、幾人かに薦められていた〈鈴木大拙館〉にはけっきょく行けなかった。まあ、仕方ないと切り替えてホテル周辺で雑用を済ませる。身支度を整えて、昨夜教えてもらった〈金沢アートグミ〉に向かう。人でにぎわう近江町市場の交差点、銀行の3階。階段で上がっていくとまずロビー、その奥にけっこう大きなギャラリーがある。

展示しているのは津田道子「so far,not far」と題された映像作品。道を走る津田さんの姿を撮った映像とインタビューの音声とで構成されていて、走りながら考えること、得た着想などが語られる。ただ、人が走って、声が聴こえる作品なのだけど、不思議と飽きない。鑑賞時間は15分程度ではあれ、得るものがあった(前日のサーカス公演で声をかけてくれた津田さんは筑波大学の卒業生。数年間アクアクでバイトしていたらしい)。

ホテルに戻ってシャワーと昼食、さっと着替えて会場に向かう。この日の開場は12時半。早めに行って、最終準備を整える。隣り合う夕書房・高松さん、昨夜お世話になった〈one one otta〉や初顔合わせの〈shintatemachi bake store〉の方々に挨拶。ここまで来ないと会えない人たち。こうしたやり取りを重ねていけたらいい。

約30分押して、開場。金沢公演の3日間を通してお客さんの期待の高さを感じる。本への反応もそれぞれで、おもしろい。わっと見て、いろいろ触って買わない人がいる。ぱっと見て気になったものをじっと見て、あとで買いに来る人もいる。巻末の一行に惹かれて『inch magazine』を2冊とも買ってくれた若者。古本と中古CDを組み合わせる女性。NOOLIO『SIDE.C Classics』を、買えてよかったと話すお父さん。ネットで買おうとしていた古本を見つけて声を上げた人もいた。

一部開演。スズキさんが大穂さんに巻きつける布の色合いがシブくて好みだ。楽器の音色、照明もそれに照応するように見えて、引き込まれる。大布の屋根が完成して、揺れるのに合わせて大穂さんが叫ぶ。「オーイ!」「オーイ!」と。腰に巻きつけた布をとおして二人の男がもんどりうつ。どたどたと床が鳴る。仕立て屋のサーカスの魅力はこういう場面でこそ発揮される。

ながめのMC、メンバー紹介を経て休憩。10分ほどのちに二部開演。序盤はブルースハープ独奏で突っ走る。シネマ・ダブ・モンクスの決め曲「tango」はわびしくも感情的。布による目隠し、照明の影での演出もドン・ピシャリ。大穂さんがカバキーニョに持ち替えて、耳馴染みのあるリフを奏でると、いないはずの人の姿が目に浮かぶような感覚に。大穂さんがガンジーさんのベースパートを弾いている。この辺りで一部からずっと、ずっと! この場にいない人の影を作ろうしていることに気がつく。昨夜の公演から兆しはあったのだ。

ラスト間近で紙吹雪が投げられて、はらはらと舞う。ばさばさと落ちる。散々観てきた場面が、なぜかこれまで以上に綺麗に感じた。あわい光を保ったまま、終幕。

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