–さて、残すはあと3曲。まずは「再見」について聞きたいのだけど、この曲は誰か、具体的に捧げたい人がいるのかな? そうであれば、納得。そうでないと、不思議。変わらない日常を過ごしながら不意に宿る寂寥感というか、寂しさを含んだ曲だと感じる。「さよなら、また会おう」なんてリリックもあって、気になるんだよね。
具体的に捧げたい人かあ。実はそういう唄じゃないんです。勿論、色んな顔が浮かび、描きましたが。この曲は、とある唄旅の時、そこは山口県の萩でした。その街にある 〈中原木材〉という製材所でライブをしたんですがその夜が、そのパーティーがとんでもなく、最高で。もう忘れられない一夜だったんですね。
その翌日、残ったメンバーとゆっくり話している時に 前々から想っていたことを話してみたんです。話してみたくなったんです。「何故、こんなにも旅を続けているんだろう?」、「出会うことも大事だけど、別れることの重要さ 」そういったことを。したら聴いてくれた友人が 「そんな泰尊のいまに相応しい言葉がある」って。それが タイトルである再見。中国語で さようなら なんだけど、「きっとまた逢える」って前提のさようなら、なんだよねって。その瞬間稲妻が落ちるような感覚で腑に落ちて。ああ、そうだったのか、それでいいんだ、これでいいんだって。今までを肯定してもらったような気持ちになって。
その後も旅は続いたんですが、その旅が終わってる頃には描き終えていました。本当に導かれるように。だからその旅路の風景も重要なポイントとして言葉になってます。この歌が出来たおかげで、本腰入れて制作が始まりましたね。特定の誰か、ってよりは 「また逢いたい」って思えるあなた、というか。
最後の最後に、houちゃんの女神のような声も入ったおかげでより唄に艶が。素晴らしい唄に育ってくれました。
–次は「Time After Time」。最終盤にチラリ挟まれるインタールード。いよいよ『薩摩キッド』が終わるけど、みんな準備はいい? と聴衆に聞いているような感じがある。
そういう風に聴こえるなら嬉しいなあ!!ここでもSKIT/インタールードを挟みたかったんですよね。こんなタイミングでSKIT挟むなんて、ある意味贅沢ですよね(笑)。ボリュームがあるからこそ出来た遊び。この曲は何度も話に出てる、ミックスエンジニアの「Quanata Recognize」に託したんです。エンジニアとして支えまくってくれたから最後はビートもやりましょう!と。すげえいい塩梅ですよね。ちょっぴりポップで、ちょっぴり寂しくて。
彼は琉球に根を張るサウンドエンジニアで、ホントにジェントルメンだし、優しく真面目に取り組んでくれました。あらゆるジャンルと仕事してる職人。あがた森魚さんの音も彼が支えていたり。もっと知ってほしいエンジニア、アーティスト。
–いよいよ最後の曲、「百年樹」。いま住んでいる古民家との出会い、解体、再生のドラマを語った曲。ここにフューチャーされている、ぢゃんシーラカンスって方の声がとにかく印象的。言ってしまえば、最後の最後の濃い味が出てきた……という印象。サラリ、スルリと終わらずにしっかり声と語りを聞かせるこの展開、どんな意図があるのかな?
最後の最後に……濃厚ですよね。贅沢なボーナストラック的楽曲。意図で言うと、最後は壮大なソウルミュージックで締めたかったんです。
喉の調子が悪くなって、LIVEができなくなって、じゃあその期間何した?と聞かれたら「家を買ったんよね」って。どえらい古民家を。自分や仲間や信頼できる大工さんとリホーム(*リフォームではなく)して。築100年の古民家、そこに立つ巨大な銀杏の木。それが本当に自分達のモノになった時に、ああ、この家の、この樹の唄を創りたいな、で、そうなったらサビはあの人に歌ってほしいな……ってとこまでイメージ出来てたんです。内容は聴けばわかるんで聴いてほしい。この唄はCD限定なんでね、今んとこ。
壮大って言ったけど、歌ってることはめちゃくちゃ小さな半径というか。目の前の暮らしというか。それでいいんですよね。そこを唄うことが反戦歌だと想ってるんです。で、このぢゃんシーラカンスとは福島出身のとんでもないうたうたいで。めっちゃお世話になってます。仏と鬼を共存してる人。聴けばわかりますが、凄まじいですよね、凄まじいんです。植田さんにも聴かせたい。
そのぢゃんさんが 「life is wonderful」って叫んでるしキーワードになってるんだけど、とある映画を見てて その言葉の和訳が 「人生はいいもんだ」だったのがすげえ良くてさ、と、「人生は素晴らしい」じゃなく、「人生はいいもんだ」って。それにすげえお互い共感して、そのフレーズが、和訳が、この唄のムードになってくれましたね。色々あるけど、いいもんだよって。最後の最後は、そんな気持ちで締めたかった。ビートも最高。
–この曲は、ぢゃんさんの語りもインパクトがあるよね。「なあ、泰尊」って言葉がずっと頭に残る。最後の最後までしっかり濃い味を出すところ、泰尊くんらしいよなあ。……じゃあ、最後に泰尊くんからひと言、お願いします! ライブのスケジュールなど告知があれば、ご自由に!
まずは植田さん、関わってくれた皆さんへどうもありがとう。
このアルバムを世に出してもう2ヶ月が経ちますが、余裕でこっからだと想ってます。今月から本格的に薩摩キッドを携えた旅路が始まります。関東近辺でしたら2/16国立地球屋、2/17埼玉東川口Senkiya、2/18吉祥寺BAOBAB、4/14はつくばOctBassへ歌いに行きます(4/13、4/15も関東で唄う予定)。他にも全国各地唄いに行きます。スケジュールはインスタをチェックしてください。
サブスクでも配信してるが全曲聴くにはCDまで辿り着いてもらえたら嬉しい。リリックブックレットにも。そうそう、PEOPLE BOOKSTOREとも面白いことやりますよね、それは近い内に 発表しますのでもうしばらくお待ちを。
逢えばわかるし、日々は続く。きっとこれからも。この世界のどこかで逢いましょう!
–行けばわかるさ、ありがとう! てな感じで、またよろしく。
インタビューを終えての雑感を少し、書いておきます。
読んで気がついた人もいるだろうけど、最初の3つの質問(①)はかなり意地悪。「なんでこんなに長いの?」「聴き手のこと考えてる?」「ここまで言葉が多いってのはひとり善がりでは……?」なんて気持ちをぶつけてみたのだ。これには泰尊くん、どう反応するかな〜ヒヤヒヤしながら。見ての通り、彼はまっすぐに答えてくれた。聞きたい点から若干ズレた気がしたけど、その姿勢に自分は懐柔された。その後は、分かりやすく誘導することだけは避けつつ、肯定的な質問が多くなった。
このインタビューを読んで、泰尊のファンにならなくていい。ひとつも共感できなかった! なんて声が聞こえてくることもあるだろう。インターネット上の動画なんかをチェックしてみて、やっぱ苦手だ……となる人がいて当たり前。でも、何かちょっとだけでも心が動く点があったなら、ラッパー・泰尊の活動に触れてみてほしい。『薩摩キッド』を買わずにいきなりライブに行くのもいい。CD付属のブックレットを読みこんで、気になった箇所を本人と話してみるのもいい。
泰尊くんが最後に言った「逢えばわかる」ってのは嘘じゃない。自分自身、本人に会っていなければ、こんな風にインタビューなどしていない。でも、会えば分かるさ! ってだけで片付けたくない気持ちもある。日頃から人柄と音楽性は切り離すべき(だから、無理に会わなくていい)、そう思っているわけだし。でもなあ、彼はやっぱり魅力的なのだ。
……こうやって書くほどに、本質から遠ざかってしまう気がするので、今のところはこの辺で。長い長いインタビューをここまで読んでくれて、ありがとうございます! 感想をぜひ聞かせてほしいです!
(PEOPLE BOOKSTORE 植田)
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