2024/02/05

薩摩キッドを語りつくす! 泰尊へのインタビュー②

鹿児島〈食堂 湯湯〉には泰尊コーナーがある!

–それはいい出会いがあったね。薩摩藩の歴史、弾圧や差別、侵略の事実を受け止めて現代に立つ自分のルーツになる言葉を使う。薩摩キッドってタイトルに込めた意志、しっかりと伝わりました。話してくれてありがとう。

では、ここから収録曲の話に移ろうか。まずは「口上荒磯」! 俺、この曲すげー好きなんだよね。砂埃の向こうからマイク一本のラッパーが現れるような情景が浮かぶ。エッジのあるフロウもオープニングにぴったりだと思う。重要な役割を果たしているギタリスト、souさんのことを知りたいな。その上で、この曲をつくった意図も話してほしい。

俺もこの曲めっちゃ好き。ずっと前からギター一本とラップ一本の曲が創りたかったんです。俺にとっての”ご挨拶”。何小節かわからないくらいスピットしてます。

SOUは、茅ヶ崎出身埼玉在住のギタリストで。出逢いは初めて東京でLIVEした2016年。MOROHAのアフロって男が引き合わせてくれて、渋谷〈EAR〉という彼が働いていたBarで僕の1stアルバムのリリパを組んでくれてその時の共演者で。凄腕の同い年で速攻意気投合したんですよね。それから彼は今もそうなんですが関東にLIVEで行く度に必ずと言って良いほど足を運んでくれる義理堅く優しい男なんです。で、ずっと弾き続けてるのも知ってたし会う度に「いつか創ろうね」って話をしてて、ただそれはずっと実現してなくて。で、最後に会った時もそういう話をして別れたんだけど前ほど表情に活気がないことに気付いて(勘違いかもしれないんだけど)。

その時にその「いつか」をずっと先送りしてる自分にも気付いて、もしかしたらそのままフェードアウトしてしまうかもしれない。それは嫌だな、と。丁度このアルバムの制作を考えていたタイミングもあって思い切って声を掛けたんです。彼はめちゃくちゃ喜んでくれて。そして何度もダメ出しする俺にめげずにしっかり答えてくれたんです。いい仕事してくれた!!

「いつかのEARがここで繋がる」とはまさにこういうことで。

で、イントロとしては長いんだけど一本録りだから編集ができないと、じゃあこのまま行こうと。だったらこの曲を通して俺が普段歩いてる風景や思考や人々や店や今までとこれからを一気に紹介しちまおうと。休まずに一気駆けしちまおうと。リスナーのケツに火つけちまおうと。俺も一本録りで臨んだからその時の緊張感もしっかり残ってますね。これが俺からの、薩摩キッドからの、ご挨拶です。


「口上荒磯 guitar by sou / 泰尊,TAISONG featuring 笑福神楽団」

–2曲目の「CALM ON JOURNEY」、これぞ泰尊節だなーと思う。メロウでタフなチャレンジャー、やさしいけど甘くないリリック。はっきり言えば、耳にして新鮮味はない。でも、曲順的には必要だと思う。旅の途中の自問自答をラップしてるのかな、と思っているけどどうだろう?

この曲はまさにそうですよね。正直、アルバムに入れるか最後まで迷ったくらい自分らしい唄。めっちゃ好きなんですが、新鮮味はないですよね(笑)。

だけどそんな唄を2曲目に持ってこれたことが実はミソで。こういった曲は全体がまとまりやすくなるからクライマックスに持ってきがちだと想うんです、作品に強度がなければ尚更。だけど今回は2曲目っていうすげえ実は重要な位置に持ってきた。今回のアルバムに強度に自信があるからこそ、ここで。むしろここしかなかった。

確かに、自問自答ですね。慈愛も、自戒も込めて。リリックにある 「それで良いじゃん」「それじゃダメじゃん」本気で言ってくれる人。植田さんもそういう人だと思うんですが、良いことだけ言う人じゃなくて、褒めてくれる人だけじゃなくて、厳しいこと、ハッとさせられる人の存在。

で、自分ばっかり話すんじゃなく「そっちの調子はどう?」って相手に一言でも問いかける大事さ。ある時にやっぱり一方通行じゃダメよねって想ってて。この曲は冬の関東で描いてましたね。「急ぐんじゃねえって言われたわ/まるで新宿行各駅停車」とか、10分早く行くために鮨詰めの急行乗ってる人々を見て乗るの諦めて後に来た各停のったら超ガラガラで、優雅に本を読みながら目的地に向かって。ああ、やっぱりそうだよな、とか。って考えた自問自答ですね

この唄はビートに導かれ、そんな断片を繋ぎ合わせて調和を願ったコラージュですね。

2023年12月8日、食堂湯湯でのライブ!

–「Keep on moving,making magazine」! この曲いいよね。今年に入って本格化している〈食堂湯湯〉店主の中村くんとの協働をイメージさせるリリックもいい。なによりグルーヴィーなトラックのノリがいいし、カッコいい。ここでシャウトしているヨロイたけしさんって何者なのだろうか? ここで歌われるmaking magazineって言葉の意図も知りたいな。

この曲もいいっすよね、DJ YASAのビートとスクラッチが爆発してますよね。LIVE序盤でフロアに火を付ける曲が創りたくて、今までこういったノリの曲を意識して作ってなかったなあってのもあり産まれましたね。

ヨロイたけし氏は宮崎在住のファンタジスタ。前衛アーティストであり、現役バリッバリの板金屋なんです。自分で叩いて作った銅板の鎧を身に纏い九州中のイベントやパーティーを祝いにやってくる素敵な男なんです。「総員前進」がキーワード。鎧を身に纏い、パフォーマンスもするし、ポン菓子機を持ってきて爆破させて子供達に配ったり、オーガニックコーヒーを出店したり、純粋にひたすら踊ってたり愛すべき男なんです。無農薬の畑や田んぼもやっていて、奥さんも〈ippuku-ya〉という知る人ぞ知る最高のご飯屋(出店メイン)も営んでて、生き方にこだわった素敵な夫婦なんです。いつも優しく見守ってくれていますね。そんな彼の渾身のワードを世界を獲ったターンテーブリストにコスってもらうなんて超面白いよなって想ったのです。

「making magazine」。この言葉は植田さんも縁深い中村こと中ちゃん(a.k.a dj champon)が俺にくれた一言からインスパイア。彼が俺のパーティーや生き方をずっと見てくれた上で「タイソンは街の編集者だよね」って言ってくれて。「雑誌みたいなパーティーだ」って。ああ、そういった見方もあるんだって嬉しかったんですね。

街や暮らしをデザインする、じゃなく、物語を紡ぎ、編集する。エディットする。そりゃヒップホップだわ!と。きっと中ちゃんもそう在りたいと願ってる生き方だと想うし。「KEEP ON MOVING」じゃ、ありがちすぎるタイトルだと想った時にそれを想い出して、造語を創る感覚で「MAKING MAGAZINE」を足したら いい感じにフィットしてくれたんです。

雑誌のように、ラフにタフに。ワクワクを忘れずに。生きて行きたいもんです。


–しっかり答えてくれてありがとう。では、次が「薩摩キッド」だけれど冒頭でけっこう話してくれているので飛ばして、「REBEL REBEL,PEOPLE PEOPLES」のことを聞こうかな。ハードコア・パンク・バンド、LIFESTYLEの演奏の上でのラップ! 一瞬驚くけど、すんなり聴ける。「何も無い街で 何かを探せ」という言葉が象徴的なこの曲、ずばりどんな試みなんだろう? 地場の先輩、先達への敬意の表明。これからも諦めないという意思表示と俺は読んでいるけれど。

THE MESSAGE。このタイトルとサビのフレーズは生きるテーマみたいなもんです。そんな唄には、鹿児島でずっとカッケー背中魅せてくれるLIFESTYLEの楽曲をサンプリングしたかったんですよね。何より1番伝えたいことが詰まってるし、この曲に込めました。

激しいこと言ってたり、社会をぶった斬ったり、だけどよく聴いてみたらチャーミングだったりクスッと笑えるフレーズも仕込んだり、ただの文句じゃ終わらせない、怒りや哀しみや混沌の中でしっかり立って、遊ばせてもらいました。レコーディングはめちゃ大変でしたが(笑)。 

この曲は 「違和感」に重きを置いていて。同じ日置という街に住む凄腕のビートメーカーのhiatohが何回もやり直してくれて。最初はもっと綺麗だったんです、だけど、もっと汚そう、もっと解放できるっしょ、って追求した結果こんな仕上がりになりました。ラストバースに行く前のチャイムは日置市の12時のチャイムです(笑)。

アルバム内でも特に、レコーディングエンジニアとビートメーカーとミックスエンジニア、私、4人の結晶ですね。

コンビニが一個しかない、引越して今や一個もない街からでも 全国に発信できるし、行動できる。 "なんもない"って嘆いてる暇ねえわ、探せ!!動け!!したらなんかしらあるよ、胸張れるよ、きっと報われる時が来るよ。それはずっと言い続けたい。

諦めないし、続けて、続いていく。けど肩にそこまでチカラは入ってないというか。そんな感覚はアルバムのムードになってますね。

あと、"薩摩キッド"で言い忘れたことがひとつあり、ビートを担当したOWLBEATSは鹿児島を代表する、いや、日本を代表する素晴らしいビートメーカーだと想ってるんですが。彼の出身は奄美大島なんです。そこもちゃんと繋がってるんです。

(③に続きます!)

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