2022/01/04

野田昌志が2021年を振り返る

  目の前のカレンダーはもう2022年になっていて、いや2021年ももう終わるのかとひとり妻の実家のトイレに座ってボーッとしていた。窓の外では雪がハラハラ舞っていて、そうかそうかとチラともう一度カレンダーに目をやると2021年の隣に令和4年、平成34年、昭和97年と書いてある。うーん昭和97年!小学生のころ近所のスイミング教室で昭和が終わったのを知ってから、そんなに経ったとは...なんだかたまげたなと私は妻の実家のトイレで感慨に耽りながら、モジョへイに依頼を受けた昭和96年を振り返ることにした。



 世間がなんだかザワザワしだした2020年の3月に息子が生まれ、我が家は妻の実家のある長野は木曽で子育てをして、私はひとり神奈川の藤沢で写真を撮ったり映像を作ったりの単身赴任状態で生活することが多くなったが、2021年は神戸で撮影したタートルアイランドLive版のダイジェスト映像の編集から始まった。これはグランストンベリー・フェスのメインステージにも立った彼らのライブ(と言っても会場にはスタッフしかいないため好きなポジションから撮影できる録音と撮影のための生ライブ)を2日間最前線で浴び続け、夜は呑み食いしまくるというそれはまあ豪奢な時間であった。個人的に好きな曲SELF NAVIGATION10年ぶりに撮れたのは最高であり、やっぱり素敵な曲だと再認識。霞がかるマホロバいざ行かん列島!

https://youtu.be/KapCPU4W72U



 4月の下旬、山崎円城さんのMVのために長野の妻の実家から車を走らせて上高地に向かう。水を裏テーマに決めて中目黒の川から江ノ島の海を撮り、そして上高地に来た。しかし雪解けの上高地の圧倒的な景色がなかなか撮れず、当時のメモを見返すと悩みは深い。

「今回のひとつの目的は水を撮ることなので、透明な水を寄って、引いて、またいろんな方法や角度から記録する。しかしやはり留まり、待つ撮影が出来ない。もしかしたらこの先にはもっと良い水を撮れるシチュエーションがあるかも知れないし、実際にそういうことは多い。しかし自然を撮るというのはひたすら通い、待ち続けることなんじゃないか。そう頭には浮かんで来るが、先への好奇心が抑えられずにまた歩きだす。数回シャッターを押すと、流れとは逆に足を向ける。やはり自分は動くカメラマンだ、と自分に言い聞かせてまた森の中、木の下へと戻って行った。」

自然に打ちのめされた撮影ではあったけど、映像は無事完成して一安心。写真で見せていくシンプルな構成は個人的に気に入っている。

https://youtu.be/xPlQ0VuASjk 


5月になると、ギタリスト小池龍平さんの紹介で台湾のミュージシャン台湾のミュージシャン以莉・高露さんの「尋找你」という曲の映像が公開された。

2020年から撮影編集を繰り返していたけど無事公開できて小躍りする。本来ならば台湾に飛んで撮影したいところだったが、曲を聴いて日本で撮影し、それを見て台湾で撮影してもらって話し合いを繰り返し完成。ストレートなMVというのはなかなかに難しく気恥ずかしいがそこから逃げちゃダメだと感じたし、そこはちょっとした演出やアイデアだろうなと。楽曲の良さもさることながら、台湾のカメラマンの技術の高さにも救われた映像に。

https://youtu.be/daQAjbB4LHs



 521日、少しだけ出演させてもらった石井裕也監督「茜色に焼かれる」が公開される。石井監督の映画に出させてもらうのは2回目だが、その演出に毎度驚かされ勉強になる。

今回私は尾野真知子さんに酔っ払って絡む4人のバンドマン役のひとりで、台本にはセリフがなかったがリハーサルであーしようこーしようと決まっていく。その時点では4人ともまあまあなセクハラ具合だったが、監督に「4人にグルーブ感がないし、今の時代に全員がそんな絡み方をするかな?」など指摘を受けバンドメンバー役で話し合い、各々の役を詰めていった。「野田さんはもっと強く!」ということで始めはアコギのシンガーソングライターみたいに歌っていたのが、ついにデスボイスになり音声さんから「リハと違いすぎますが大丈夫なんですか」と言われたのもよき思い出。

https://youtu.be/jgJfiTe7D6k


そして初めて演技させてもらった石井監督の映画『生きちゃった』がNETFLIXで公開された。問題作で刺さる人には刺さりまくる映画になっているので、お時間ある方は見てもらいたい。

https://www.netflix.com/title/81494868



 8月神奈川に来た息子が朝4時半くらいに起きるので、3時に起きてメールの返事の下書きや映像の編集をしてそこから起きてきた息子を連れて出かける。息子は外遊びが好きだが、真夏の4時半というのはもう結構な暑さで蚊も飛んでいるしで、ふたり始発の江ノ電に乗り込み鎌倉や七里ヶ浜で散々遊んでいた、幸せな暑い夏。



 9月、飛騨高山ジャズフェスティバルに呼ばれたり生配信が増える。代官山に「晴れたら空に豆まいて」というイベントスペースがあって、そこのオーガナイザーさんたちは本当に個性豊かで興味深く、よく撮影や生配信のお手伝いをさせてもらっている。ここが好きなのはそんなオーガナイザーの個性が演者さんの幅の広さに繋がっていて、柳家喬太郎さんから浦沢直樹さん、アイドルから三宅純さんにメキシコやドイツのミュージシャンが日々代官山の地下でライブを行なっている...のだが今の状況はさすがに厳しいことも多い。しかしスタッフさんは「野田さんカメラ教えてください!」と即自分達でライブ配信のセッティングを組み上げ世界に流し出し、そしてそのカメラ技術の上達速度は本当に刺激になった。音も最高な素敵なハコ。

http://haremame.com/



 11mama!milkさんレコードのインナーで写真を使ってもらう。

11年前、Barでマスターにどんな音が聴きたいか聞かれ、妻が静かでカッコいい音楽とリクエストしたら流れてきたのがmama!milkさん。それからいろんな縁があっての今回で非常に嬉しい。 昔、友人に「キミはうるさい音だけがパンクだと思ってるでしょ。」と言われたが、mama!milkのおふたりの美しい旋律から滲み出るパンク感が大好きだ。自分が思うパンクと世間のパンクは違うかもしれないけど。

パンクと言えば、葉山のカフェDAYS386のタケミヤが「今度さー、筑波のモジョヘイくんとこの展示すんだよねー。」というのでノコノコとカメラを持ち出かけると、店の前にデッカイ髭の男が煙草を吸っていてそれが今回絵を展示するJun Yabukiさんだった。口数多くない彼の立ち振る舞いは、福島での彼の暮らしを想像させて思わず撮ってしまう魅力に溢れていた。勝手な妄想だけど、五十嵐大介さんの漫画のリトルフォレストみたいな、福島の山奥で日常を大事に送っている姿が頭にありながらカメラを回していた。描き始めの作品はチラシやカレンダーの裏に描いてあって、そのDIY感や佇まいはまたパンクを感じた。そしてクロージングパーティでのTACT SATOさんはパンクいやクソパンだった

http://people-maga-zine.blogspot.com/2021/11/days-386.html



 そして12月、2020年に亡くなったTONY ALLENの映像を再編集して公開。

8年前に来日した時にKINGDOM☆ AFROCKSTONY ALLENMVを作るので撮影していたのだけど、まあ魅力的な人たちで必要以上にカメラを回していたことが今回の映像に繋がった。撮りすぎるのも被写体の人に負担をかけるが、今回は撮っててよかったなあと。撮影した2013年で70歳を越えていたはずだけど、朝まで遊んだりパワフルな人だった。そんな彼の日本で楽しんでいる姿を記録できて本当に良かったと思う。TONYを撮っていると、世の中凄い人はいるけど偉い人ってのはいないんだなと思ったのを思い出すな。

https://youtu.be/vaX5xRsTdv0



 長野の雪の中のトイレで今年を振り返っていると、思ったよりいろんなこと撮ったんだなとしみじみ。いろんな人が遠くに行ってしまって、息子がやってきた。これからも近くの人たちを記録していけたら嬉しく思う。そういえば数日前に見た、毎年楽しみにしているM1の後に芸人さんが「芸に人間性が出てきたから錦鯉がM1優勝したんだよ。」と言っていたのを聞いて腑に落ちたことがあった。いろんな映像や写真に漂うコレってなんだろなあと、匂いとか空気とか言ってたけど人間性かと。人間性ってやつがもっと映り込めばより良い写真と映像になるなあ、けど自分の人間性ってどんななんだ?と齢四十三にして思春期のような悩みを漂わせながら、妻の実家のトイレからコタツに移り私は2022年を迎えたのだ。

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