12月17日。朝、外をみると粉雪が舞っている。部屋の灯油が切れてかなり寒い。布団に入ったまま日誌を書いて、前夜の売上を確認する。意を決してシャワーを浴びると、いやあサッパリ。勢いのまま帰路の福岡空港までのバスを予約して、支払いと散歩のために外に出る。空気が冷たい。長崎の波佐見で冬の到来を感じるとは、まったく予期していなかった。
朝食をとって宿を出て、10時に会場着。本の配置を入れ替えると、自分にやるべきことはなし。とりあえず郵便局まで歩いてみようと思い立つ。10分ほどで着き、作業を済ませる。さて、どうしようか……考えつつ、往路とはちがう道に入ってみると金谷神社の大きな鳥居が目に入る。せっかくだから行ってみようかと歩き出すと、神社まで2.5キロとの案内板。けっこう遠い。行くか行かぬか、どうしようかと迷うが、エイヤッと歩き出す。そこからが長かった! 歩いても歩いても、目的地は見えてこない。静かな田舎道。たまに車が通るくらいで人はまったく歩いていない。さあ、そろそろ! と期待が出てきたところで、あと1.5キロの案内板。がーん! まだまだかよ……と落胆しつつ足を進めると人がいる。何かの収穫をしていた女性に、あとどれくらいですか? と聞くと、嫌な顔もせずにあと15分くらいで着くからがんばって! と応えてくれる。
ここまできたら引き返せない。粉雪が舞うなか歩いていく。坂の勾配がきつくなり、息が切れる。汗がにじむ。いったい俺は何をしてるんだ……あ! 境内の看板だ! やっと着いた。最後の階段を上がりきると、ちょうどよい大きさの社がある。高台からの眺めがいい。遠くの山に陽がさして、緑の色が光っている。きれいだな。仕立て屋のサーカス公演の成功と家内安全などの願掛けをして、金谷神社を後にする。帰路は下り坂をズンズン歩く。途中、途中の見覚えのある風景が愛おしい、不安がないから心も軽い。あっという間に街に戻る。約1時間半の冒険だった。
波佐見講堂に戻って、しばし休憩。ストーブに当たりつつぼーっとする。スタッフのみんな、照明担当の渡辺くん、音響調整のヤスさんと話す。地元波佐見の制作担当、ケンタさんが「さっき歩いてたね」と声をかけてくれ、金谷神社までの往復を伝える。「え〜!」と驚かれ、逆の方面も面白いから、なんなら連れていこうかと言う。いやいやと遠慮していたが、やっぱり行ってみますか! となり、車に乗る。ぐーんと裏道を走って棚田が広がる風景、窯元が蝟集する集落などを案内してくれ、マルヒロという会社がいとなむ〈HIROPPA〉というエリアに到着。いきなりの垢抜けた雰囲気に驚く。でも、不思議と嫌味がない。こんな場所をつくりたい人、かかわりたい人、たくさんいるだろうな。
ケンタさんはあちこちに知り合いがいて、慕われている。車内で話してくれることも面白い。誘ってもらわなければ、波佐見の魅力を感じないままだった。街には人がいて、店があり、家もある。距離感も違って面白い。うーん、いいところに来られたなあ。
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