神田が気に入っていて、三日にあげず出掛けて行っては、お茶の水の橋の上で、激しい人通りにも構わず、地面に坐りこんで何時間でも写生を続けた。そんなふうだから土井さんの洋服はすぐ汚れてよれよれになり、それにろくに物を食べず、コーヒーばかり飲んでいるせいか、足の甲が腫れ上がってしまうのであった。(「土井虎賀壽──素描と放浪と狂気と」)
3月16日、土曜日。なんとなく、洲之内徹『気まぐれ美術館』を読みはじめたら、止まらなくなった。画家や作家、哲学者など知らない名前ばかりが出てくるのだが、誰もが人間的で、魅力があるように思えてくる。真面目なようでふざけているのか判別しがたい語り口──洲之内節というのか──にハマると抜けられない。上記した一節は今朝読んで、魅了された。土井虎賀壽(どい・とらかず)という人物はまったく知らなかったのだが(*)。
読んでいて頭に浮かんだのは、佐伯誠『遠く、近く 掛井五郎のこと』だった。「神田が気に入っていて、」とはじまる語り口が、佐伯さんになんとなく似ている気がする。『遠く、近く』は内容量よりゆたかな質量、そんな惹句をつけたい本。今も店に並べてあるので、ご注目を。
今日明日、明後日は13時開店。お暇があれば、ご来店ください。
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