浅草が野口氏を呼んでいるのである。それに応えるように氏は町に出かけていく。そして町歩きを楽しみ過ぎるほど楽しむ。山歩きの好きな老人が単独行を楽しむように、野口氏は町を楽しんでいる。その遊び心、余裕がこの本を懐かしく、悲しい本であると同時に、楽しい本にもしてくれている。野口氏は東京が単に好きなのではなく、東京を歩くのが好きなのだ。それを「歩行の快楽」と名付けたらいいだろうか。(川本三郎「解説」)
今、読むべきものを読めた気がする。野口冨士男『私のなかの東京 わが文学散策』は実にいい本だ。やさしい言葉で書かれているわけじゃなく、全てを咀嚼できたとも思わない。でも、「あなた自身のなかの東京を大切になさるようにお祈りして終りの言葉としたい」という呼びかけが自然と心に響いた。会ったこともない、著者の声が聞こえるようだった。
巻末の川本三郎による解説も本編を支えて、補足する絶妙さがある。上記した部分にある「歩行の快楽」はちょうど先週、自分が感じたものに近いものだと思っている。歩行は文化である。そう言い切ってしまいたい。
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