写真:西恵里
植:今ってインターネットで、音楽の発表が出来る時代じゃないですか。その時代でのインディースピリットとは?
や:僕もそのことを考えてたんですよ。難しいけど、なんだろな、もともとで言 うと、人間の話もしちゃいますよ。もともとはさ、誰だって独立独歩というか、 家族、親っていう繋がりはあってもさ、基本的には独立したものじゃないですか、人間自体が。だけど、音楽ってのはちょっと前まで、何年前だろ、20年前とかでも、インターネットでも気軽に発表出来なかったから、基本的には、どこかのレーベルと契約して出してもらうってことをしてもらわないと、世に発表することすら出来なかったわけじゃん。それが今ってもう、5分くらいでアップ作業をすれば発表 出来るから本当の意味で全インディーになっているというか。
V:そうですね。インディーと言えども、出すためにYOSHIKIはここまで努力しましたからね。
植:今、インスタグラムなんかでフォロワー数が多い人とかってある意味アーティストっぽくなっちゃいますよね。
b:ある意味、だから雑誌の読者モデルみたいなもんですからね。総インディーと言えなくもない感じになってますからね。インターネットのおかげで。
植:その時代ってのは、皆さん的には居心地は良いですか? 音楽家として。
b:聴く方として色んなものがあるのは面白いですね。本当に打ち上げ花火みたいな、企画ものが沢山ですけど。やっぱりその瞬間瞬間は面白いから、それはテクノロジーが無かったら生まれてないものだから、それは面白い。
V:どっちもありますよね。簡単に出せなかった人達の表現が、簡単に聴けるようになった面白さはあるんですけど。
植:やっぱりそれがあってこそご自身たちもパワーを発揮できるといった感覚なんですか?
や:ただ、やっぱり、僕とビデオくんとベーパナ君の世代は、インターネット・ ネイティブ世代ではないというか。基本的に中間というか。10歳くらい下の世代の人達だったら、物心ついた高校生くらいから音楽を作り出したってときにそういう発表仕方があったと思うんですけど、僕たちは最初はそれがない世代で、徐々に大人というか若者というか、その間で出来出している世代なので、 なんだろうなー、今言った質問でいうと難しいというか。例えば、ベーパナ君とかはちょこちょこ曲とかアップしているけど、自分もインターネットにDJミックスとかアップしたりしたこともあるんですけど、なんだろな、基本的には一応CDを出すのがベースだったりする世代なので。
V:データだけじゃなくて、物としてちゃんとパッケージされたものをね、ちゃんと選んで買う楽しみも知ってるから。 それにギリギリ愛着がある世代だから。
植:僕もそうですね。
や:だからなんか、それも本当に先入観の話だと思うんですけど。自分はずっと音楽の仕事してて、例えば自分のアルバムだったり、ほかの人のリミックスをさせてもらったりとか、何10枚とか、100枚くらいいろんなCDとかレコードを出させてもらってるんですけど、なんか、やっぱり、形になった時点で作ったなという気持ちになるというか。それはまあ、世代の先入観だと思うんですけど、ほんとは別に音楽を聴いてもらうってことのなかでは、インターネットにアップして音声データで聴いてもらうでも、空気の振動としては一緒なんですけど、 どうしてもやっぱりパッケージングで出来たときの達成感や喜びはある世代なんですよね。
V: たとえば50年近く前とかの古いレコードを面白がって聴いている自分の気持ちを考えると、データだけで出しちゃうと、もしかしたらたとえばこの先50年後に、こういう楽しみ方は出来ないのかなとか思ったり。もしかしたらインターネットの中に存在しているデータをレア・グルーブとして発掘する楽しみっていうのが、新しく生まれるのかもしれないですけど。
植:そう、僕も必ずしもネットで聴くのを悪く言いたいわけでもなく。ネットでも聴くし、レコードでも聴きますし。
や:あのね、SoundCloud(※7)の話は僕もちょうど考えたんですよ。全インディーの時代になったということを。それで思ったのが、ビデオ君が言ったように僕も同じことを思って、基本的には、それはなんかきれいごとなのかもしれないけど、そのクオリティーの良し悪しは別として、色んな年代、色んな地域、色んな考えの人の小さな声、それこそインディー・レーベルでさえ掬えなかったような色んな声が聴こえるっていうプラットフォームが出来たのは素晴らしいことだと思うんです。だけど、現状の、まあ例えばSoundCloudでもいいですけど、なんらかの形でデータでインターネットで音楽を配信している人達が結局、人それぞれの声を発しているのかというと、逆になんかこう、均一化してくるというか、そうなりがちな印象があるというか。あと、なんだろうなあ、より流行っているジャンルだったり、みんなに聴いてもらえるようなことをしがちっていうか。それももちろん、端から端までは聴けないから、自分の印象論だったり、自分の知ってる範囲なんですけど、なんかそんな気はしちゃいますよね。
b:まさに僕が、やけさんと繋がったきっかけも、ネットのやりとりだったんですけど、後悔していることとして、そういうSoundCloudが始まる直前くらいに、もう引退しちゃいましたけどあるJ POPのシンガーソングライターの曲を、その当時ですね、アメリカでボルチモア・ブレイクス(※8)っていうブレイクビーツのジャンルが流行っていたんですけど、そのマッシュアップを作ったんですよ。 「恋しちゃったー」って曲なんですけど、それを掛け合わせたのを作ったらものすごい反響があって。当たり前なんですよね。
や:それ何年だっけ?
b: 2007年の3月ですね。
や:そうするとSoundCloudは、まだないけど、徐々にインターネットでそうやって音声データを気軽に発表することが出来だした時代ですよね。アップロード・サイトですかね。
b:そうですね。で、結局海外のメディアにものっかったし、4,000ダウンロードくらいいったんですよね。だけど、全然楽しくなかったっていう。だから結局流行りものに乗っちゃって。それが好きだったら良かったんですけどね。
や:そういう後悔もあるんだ。
b:全然ありますよ。
や:やりたいことをやらなきゃ意味がないってことですね。そういう意味では若かりし頃のベーパナ君がそういう気付きを得られたことは、勉強というかすごい良かったですよね?
b:だからこそ結構距離は置いてますよね。どんどん新しいジャンルが出てくるんですけど。ちょっと一聴すると、やっぱり面白いんですよね。だけどそれは結局、打ち上げ花火っぽいというか。パッと聴いて一秒で面白いっていうのが、 ネットの特性として、ネットに上がってて流行っている音楽にはありますね。
や:それはありますね。普通にポップスだったりクラブミュージックも曲の長さは短くなっているし、ポップス自体もネットだけじゃなくて全部が一聴で耳を惹くようなものになっているよね。
V:どちらが悪いとは言えないですけど。やっぱりネットで聴くのは一曲単位でみんな判断する。音楽は多様性として3分でわかる曲もあれば、1時間聴かないとわかんない曲もあるのがいいから。
b:作る側も出来上がってリリースまでの時間ってのもあって、買う側も見付けて、買って、ジャケを眺めてっていう時間もある。
や:わかるよ。僕もそう思うんだけど、さっき言ったように一つの時代の先入観ってのも当然あると思うし、レコードもSP盤の時はジャケットが無かったし、更に言うと、100年ちょい前までは、レコードが無いから音楽っていうのもライブ演奏しか無かったわけだし、やっぱり時代ごとに変わっていくのはしょうがないし、テクノロジーの進歩のなかで。
V:逆にラジオの時代は今のインターネットに近いんじゃないんですか?
や:そうかもしれないね。3分間ポップスとか、いかに耳を引くかって。僕もどっちかって言うと、派手な音が密集した音楽ってのはぜんぜん好きじゃなくて、今でも基本的にレコードで買って、ジャケット眺めて針落とすのが一番好きだし、それに一番お金使ってるっていうか、買ってるんだけど......、進歩の歴史を踏まえても、一度進んだものは戻らないっていうか、一度やっぱりリスナーの耳が濃縮されたものに進んでしまったら、針は戻らないんだろうなあとも、現実的にはなんとなく思うというか。
V:もちろんそうですね。ただ、昔のことが良かったって言ってやり続けても、それは伝わらないから。
植:いま、若かりし頃のYOSHIKIさんがいたら違うやり方で・・・
V:もしかしたらインターネットを駆使してYOUTUBEにPVあげて何千何万回再生とかそういう話かもしれないし。
植:そこで金持ってる人に見付けてもらって、のし上がってくんだってストーリーを描くかもしれないですよね。
や:逆に気になるね。85年のYOSHIKIさんが今の時代だったらどんなYOUTUBEのPVを作ったのかとか。相当気合い入ったさあ、死にものぐるいでビュー数とれるようなPV作ったんじゃない? わざわざ資料に載せたんだけど、エクスタシー・ レコーズの『オルガスム』っていう最初の7インチのキャッチコピーが「このスピードに着いて来れるか!?」ってのと「はっきり言ってこのEPは爆発的に売れ てます!」っていう。これめっちゃカマシですよ! ファースト7インチ、しかも 売れてますってプレスする前に帯作るわけでしょ。これを言い切るのとかってすごいなあと思ってやっぱり。でも言い切る強さって言うか。
b:成功したいっていう。
や:っていうかもう、成功するし! みたいな感じじゃないですか。
植:皆さんは、誰かしらに見付けてもらってリリースをするというか、CDを出すっていう大きなポイントがあったんですか? あそこが自分が周知されるきっか けだったみたいな。それとも自分でのし上がったんですか?
や:それは、またここの中でも歳もちょっと違うんであれなんですけど、そこも間の世代というか。基本的に僕はデモテープとか送ったこととかないんですよ。 自分でミックスCDを作ったり、そういうのが普通だったっていうか。自分で作るのが普通な上で、まあ、たまたま知り合った人との相性だったり、自分がやりたいこととのバランスの中で、良ければ他人とやったりしてますし、今もやってますっていうだけで、どっちかっていうとなんか、それが世代論なのか自分の考えなのか自分の好みなのか、よく分からないですけど、多分最初からあんまりあてにしてないっていうか、どっかの誰かを。
V:僕は全く売れる気はゼロでしたもん、作ってるときは。ほんとに趣味的にただ作りたいものを作って、売る気もなかったですねぜんぜん。
や:じゃあ売らないでどうするつもりだったの?
V:ひたすら作り続けて、でもまあなんか記念みたいな感じで。
や:ああ、なるほどね。ライフワークというか。
V:最初はまあ、高円寺に円盤(※9)というお店があって、これもインディペンデントを語る上で重要な店なんですけど、インディペンデントなCDだったり、本とか色々扱っていて、あくまで本人が持ってきたものしか置かないっていうスタンスのお店なんですね。僕もずっと趣味的に作ってたんで、売れるとも思ってないし、売ろうとも思ってなかったんですけど、でもまあ、せっかくなので円盤に委託をお願いしてみようと思って。で、置いたことで、まあちょっと色々広がって、やけさんに出会い、『7泊8日』ってアルバムをちゃんとした流通の形で出すに至ったんですけどね。
や:そうですよね。そういうところがありますよね。だから音楽は音楽で一緒だけど、現状、リリースするってことによって宣伝含めて他人に知ってもらえる機会がやっぱり増えるから、それ自体が、やっぱり意味があるってとこがあるよね。
V:『7泊8日』も最初はCDRで作って焼いて一部のお店だけに置くつもりでいたんですけど、やけさんにちゃんと流通した方がいいよって言われ、流通会社を紹介してもらい、それでちゃんとリリースに至ったって感じですかね。
b:結構僕はやけさんのこと知り合う前から一方的に知ってる時期もあったんですけど、もう作品を発表していて。
や:だから、それはね、僕とベーパナ君とは微妙に歳の差があるから。
b:やけさんの作品制作のとっかかりはなんだったんですか?
や:えーと、LOS APSON?(※10)って店がありまして、その店のキャッチコピーが最高で、自分のラップの歌詞にも引用したんだけど「広大なイマジネーションの海にダイブ」っていうやつで、つまり、なんだろうね、オルタナティブっていうかインディーっていうか、LOS APSON?自体もメキシコのプロレスとかモチーフだったり、“辺境”っていうのかな、一般的な音楽雑誌とかの文脈で取り上げられないような地域のものだったり、年代のものだったり、音楽性のものとか、まあ、変なものだけを置いてるってわけではないんですけど、そういうすごく変わったお店が20年くらい前からあるんですけど、ビデオ君が円盤にだけ置いてもらったのに近い感じで、僕は高校生のときに自分でカセットテープに自分の曲を入れてLOS APSON?に置いたりしてましたね。
V:売れるっていうか、友達が欲しいって感じでしたね。置くことで気の合うような音楽をやってる人がこれを拾ってくれてとか。僕、10代の時とかもバンドやってたんですけど、そこまで気の合う音楽をやってるひとが少なくて。だからまあ、そうやって置くことでちょっと近い趣味の人が引っかかってくれて、友達探しだったのかもしれないですね。
や:ベーパナ君はそういうのどうなんですか? 自分のそういうのをどっかのお店に置いたりとか、自分の作った音楽を最初に世に発表したのって規模の大小は別として、いつのどんな感じなの?
b:自分のものは......、思い出せないですけど。
や:え〜、こんだけ人に聞いといて!
b:世に出したって意味では自分の作品ではなくってですね、ネットの話にも繋がるんですけど、ネットって昔はけっこう面白いMP3のサイトが一つの場所に集まってなかったんですよね。もうほんとに自分で探すしかなくて、で、見付けたら見付けたで、自分でそんなにたくさんDJやる機会もなかったんで、勝手にMP3のコンピをCDRで焼いて作って、それをやけさんのパーティーで勝手に配ってたっていう。
や:それがファースト・リリース(笑)? 自分の曲でもないし、やばいね!
b:やばいですよ。でも、それも結構ビデオ君と同じでやっぱりその友達探しですね。まあ、自分の曲も作ってたんですけど、多分ビデオ君よりももっとモチ ベーションが低くて、もっと趣味的ですね。で、周りのちょっと音楽好きな友達にちょっと聴かし合うぐらいの感じだったっていう。で、どっちかっていうと、それよりも、もっと面白いものを見付けたなって思って、そういうMP3のコンピを作って勝手に配布してっていうところからちょっとDJやる機会が増えたり、全く知らない人とのコミュニケーションが増えていった感じです。
や:よかったね! 音楽は人を救うね。
b:スペシャル・サンクスMP3って感じですよ、ほんと。
(※7)
「Sound Cloud」 ドイツのベルリンに拠点を置くSoundCloud Limitedが運営する音声ファイル共有サービス。2007年8月設立。自作曲を投稿し、コメントやダウンロードも出来 る。約40万人の登録ユーザー、約2億人のリスナーが利用している(2013年7月 時点)https://ja. wikipedia.org/wiki/SoundCloud
(※8)
「ボルチモア・ブレイクス」 アメリカ、ボルティモアで生まれたゲットー・ダンスミュージック。俗称「B-more」。海外では、「ボルティモア・クラブ・ミュージック」と表記することが多い。日本語のサイトではこちらのブログがもっともやさしく、詳しいのではと思う。http://kyokoist.blogspot.jp/2009/10/blog-post_30.html
(※9)
「円盤」 円盤は特定の営業形態を持たない“喫茶店”であり“CD ショップ”であり“イベント スペース”である特殊空間として毎日営業しております。円盤限定のオリジナル商品を中心に、自主制作盤、中古レコード、中古 CD、古本、Tシャツ、グッズなども扱っております。そして一番の特徴は、全ての商品が「作った人が自分で納品してくれたもの」しか置いていないということです。(HPより)東京高円寺にて田口史人氏が運営。田口氏が定期的に行う行商、レコード文化の四方山話を披露する「出張円盤・レコード寄席」を7月に当店でも開催した。http://enban.web.fc2.com/
(※10)
「LOS APSON?」 ヤマベケイジ氏の運営する東京幡ヶ谷にあるレコード&CD&あれこれショップ。毎年初夏に恵比寿リキッド・ルームで開催する「Tシャツ祭り」もおなじみ。2015年9月に高円寺に移転予定。http://www.losapson. net/
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