2017/01/19

『就職しないで生きるには』


“水彩画をつくるための時間。愛しあう時間。わたしが、いや仲間の多くが金をほしがるのもすべて「自由な時間」を買うためなのだ。自由の時間はえらく高価だ。”(*1)

“人びとは、かつては奴隷たちが主人から買っていたように、自由を買おうと努力している。ところが値がはりすぎる。べらぼうに高い。それで人びとはその金のために結局は生涯をつかいはたす。それでも自由は手に入らないままおわる。”(*2)

久々にレイモンド・マンゴーの『就職しないで生きるには』を通読した。
よく知られた本だけれど、ここには「就職しないで生きる」ための方法は書かれていない。自らの意に添わない労働とは距離を置き、丸腰で社会で相対する80年代初頭の自営業者たちをマンゴーが訪ね歩き、意見を交わした上でまとめられたルポルタージュだ。そう意識して読んでみると、登場するアメリカの独立人たちの多くが、よく笑い、怒り、悲しむエネルギッシュな人物だったと回顧されていて、納得した。

効率よく金は稼げてはいないけれど、自分の時間は好きなようにつかう。手持ちの金は少なくとも、時間を好きにつかう自由は手にする。その理想に近づこうとする人たちが、元気でなけりゃ、どうするのか。結局のところ、時間がなけりゃ、金をつかう余裕も持てないのだ。

“この本の中でレイモンド・マンゴーも、そのことに気づいている。彼は、六〇年代から七〇年代への新しい文化の進行を経験してきた人たちが追求してきたのは、体制からのドロップアウトのつぎに、それなら、どうやって生きのびるか、「生計をたてつつ、同時に自由で、たのしめるしごと—マンゴーのことばでいえば〈根源的利益〉—をどうやってつくりだし、どうやって守りぬくか」という問題だった。その実体をみ、それについて考えることが、この本のねらいだ。”(*3)

繰り返しになるけれど、本書は「自力で生きぬくテキスト」ではない。でも、就職しないで生きるには、「どうしたらいいか」と考えるきっかけをくれる良書だと思う。2017年に生きる人がその後に手にとるべきなのは、定番の松浦弥太郎『最低で最高の本屋』だろうか。はたまた、現在進行形の時代に合わせた応用編『Spectator』2013年の“小商い”特集号、実践編としては木村衣有子『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』野田晶房『渋谷のすみっこでベジ食堂』あたりがいいんじゃないか。

長いこと考えつづけている「金と時間の関係性」についてまとめようと書き出したのだけれど、全く触れることができず・・・。

※2021年3月27日、写真を差し替え。テキストの一部を修正しています。

(*1)「小さな本屋さんをはじめた」より 『就職しないで生きるには』p60-61
(*2)「愛は一軒の家から・・・」より 同書p.206
(*3)「訳者(中山容)あとがき」より 同書p.212-213

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