2024/02/05

薩摩キッドを語りつくす! 泰尊へのインタビュー ①

当店でも『薩摩キッド』を販売中!

鹿児島のラッパー・泰尊から電話があったのは去年の11月頃だっただろうか。年末に新しいアルバムができるから、植田さんにコメントを書いてほしい。インタビューもしてほしい。そう言われて、ほんの一瞬戸惑ったけど、すぐに「やるよ!」とこたえてしまった。そこからがまあ、長い道のりだった。ときに泰尊くんを焦らしながら、牛歩のように一歩、一歩進めていったのが下記のやり取り。短くはならないだろうと思っていたけど、まあ、ここまで長くなるとは! 泰尊が、たっぷり、じっくり語った『薩摩キッド』のこと。ごゆっくりお楽しみください。(*PEOPLE BOOKSTORE 植田)


–泰尊くん、新作『薩摩キッド』の完成、発売おめでとう! これから本作をひもといていこうと思います。……ですが、再生する前に、いくつか聞きたいことがあります。いつからこの作品の構想が始まったのかな?

植田さん、ありがとう!いつかあなたにインタビューをしてもらいたい、と想ってました。念願。どうか色々とよろしくお願いします。

作品の構想か……。今回の作品だけじゃなく、ここ最近は 「よしアルバム作るか!」ってよりは、まず一曲自然に作って。出来上がって。その曲の、そのウタの、出来上がった状態がサインでありメッセージというか。

今作では16曲目の “再見”がそうで。このウタが出来上がって 「ああ、いいウタだなあ」って想えて。その時に 「ああ、アルバム創れってことかあ」って気付く。そうなって気持ちがアルバムに向かっていくのです。そこから本格的に制作モードに突入するって感じですね。2022年の秋頃だったと想います。


–全18曲、67分48秒。このスケールは最初から頭にあった? それとも、録音がすすむなかで増えていったのかな? 狙った上でのこの容量か、結果的なものなのか、気になります。

(*狙いは)全くなかった(笑)。ビタイチ。

録音が進む中で増えていきましたね。超結果的。ただ今作は今までの制作の中で一番特別だった、というか。2枚作った気分なんですよね。制作過程で、病気になったり、立ち止まったり、手術したり、戦線に復帰できたり。色々なことが起こりすぎて、それをしっかり落とし込むには そして「本当にやりたい、残したいもの」の理想や希望に近づくには やっぱりこのぐらいのボリュームは必要だったな。と結果的にですが。

あと今は 「短く、少なく」な時代じゃないですか。そういうのでボリュームとか少しだけ悩んだ時もありましたが、ふと気付いて。

「いや、そもそも俺そこの螺旋にいねえわ」って。「何を気にしとんねん」「誰に気を遣ってんねん」って。だから吹っ切れて好きにやりましたね、今作は特に。


–泰尊くんは録音するときに聴き手のことは考える? 具体的に聴かせたい顔が浮かぶか、という風な情緒的な質問ではなくて、聴く人がどうやって作品を受け止めるのか、全体をつかむまでの時間は想定はするのかな?

初めてそういう質問されましたね。面白い! 正直考えないですね。時間も。もし考えてたら絶対にこの時間数/曲数にならないはず(笑)。

ただ、バランスは物凄く考えます。アルバムを作ること、それは ”作品集を作る作業”ではないんですよね僕の中では。作品を並べて ただパッケージングして……ではなくて。

その先の作業であり、物語を紡ぐクリエイティブな行為だと想ってて、アルバム制作というものは。だからこそバランスを常に意識しながら制作を進めていきます。その「バランスを考える」ってことが 「聴き手を意識する」と、どこかで繋がってる気もします。

すっげー身近な例えすると弁当作りとか近いかな、と。


–断片というか曲を一つずつ仕上げて、積み上げていく。その上で全体像を提示する。なんてイメージなのだと受け止めました。やっぱり喉のポリープのことは大きいよね。構想から制作、録音までにいったん谷間が出来た。それが今作のヴォリュームに繋がっているわけだ。納得。

先行シングル的な立ち位置だった「薩摩キッド」、あの曲を表題(アルバムタイトル)にするのは最初から決めていたのかな? 

勿論最初はきっとその時に創りたいものを創ってるんですよね。けど途中からは必要な要素を探して、導かれていく感覚なんですよね。歌詞も音もトピックも。まぁそれも結果的ではあるんですが。常に考えることを放棄せずに、その上でバランスを意識するのが普通になってくれたおかげで導かれていく感じです。

なんか綺麗に聴こえるかもしれませんが、そりゃまぁざっくりなんですけども(笑)。

タイトルも全然決めてなくて。結構ギリギリまで "薩摩キッド"か"再見" で迷いましたね。ただ、やっぱり薩摩キッドという言葉が持つポップさと、今回5枚目ですが、なんかファーストアルバムみたいなフレッシュで熱い作品に仕上がったのもあり、なんか繊細な言葉よりポップで勇敢で潔いタイトル "薩摩キッド"が似合うなぁ、と。勿論、鹿児島を代表する作品って自信も表明してます。


「薩摩キッド TAISONG/泰尊 Prod.by OWLBEATS」

あと このタイトルにはひとつ物語があって。

僕はずいぶん昔から奄美大島に太い縁があって、はじめて奄美へLIVEで呼んでもらった時に とある方に 「泰尊、奄美大島と鹿児島(薩摩藩)の歴史って知ってる?」って言われて。僕は恥ずかしながら全然知らなくて、正直に伝えると、色々教えてくれたんですね。で 「君には知ってほしいなぁ」って言われたんです。その当時鹿児島のラッパーとかの間では"薩摩"って言葉がファッションの様に使われてて。”レペゼン薩摩”みたいな。僕もそこからはそういう使い方は一切やめましたね、

で、そこから毎年奄美大島に通って、ライブして、沢山の友ができて。奄美大島の仲間たちもこっちに呼んだり、紹介したり。少しずつ歴史や街や人を知って行き、ポジティブな交流をずっと続けてきて。ようやく "薩摩" って言葉を使ってもいいんじゃないかな?って想ったんです。まだ歴史のことは沢山知ってるわけじゃないですが恥じない男にはなれたんじゃないかな、って。過去は過去としてひどい歴史や差別や弾圧があったことを受け止めて、そこから時を経て、現代を生きる若者達が音楽を通して超前向きに繋がってるっていうのはめちゃくちゃ意味があることだと思うんですよね。だから僕にとっては"薩摩"って言葉を使えるようになった想い出深い作品になりました。ちょいと脱線しちゃいましたけど。

(②に続きます!)

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