こんにちは。東京の京王線・代田橋駅という駅の目の前でバックパックブックスという3畳ほどの本屋をやっている宮里祐人と申します。古本と少しの新刊を扱うお店です。
2021年3月に開店したので、今年は4年目。
今年は、本当にとりあえず続けることができて良かった、ということに尽きる1年でした。
売り上げがグンと伸びたなんてことは全くなく、と言うかなんというか…な状態なのですが、かろうじてだんだん時間の使い方が掴めてきて、本を読むのはもちろん、映画やライブに行ったりする時間が取れるようになってきました。とは言っても、やはりお店に全然人が来ないととんでもない恐怖に襲われます。特にうちは駅前なので、駅から出てくる人が通り過ぎていくのを眺めていると「自分はこの大勢の人たちからは見えない存在なのかもしれない」なんて気がしてきて、本や映画になんて全然集中できなくなってしまいます。そんな不安に苛まれながらもふと思い出すことの多かった2024年に出会った作品などを少しほど。
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・濱口竜介監督『悪は存在しない』
濱口監督と三宅唱監督は『寝ても覚めても』と『きみの鳥はうたえる』の同日公開など、よく比べられると思いますが、今年は二人の新作が劇場公開されて、それだけで幸せな年だった気がします。映画を動かしている力が、濱口監督は理論的な感じがするのに対して、三宅監督の方がなんというか動物的な感じがして、今までどちらかと言えば三宅監督の作品のほうを好んでいたのですが、今年は濱口監督のこの作品を思い出すことが多かったです。この映画はすごかった。観客の眼差しまでを取り込んだ現代のフィルム・ノワールを撮っていると思いました。
・小森はるか監督『空に聞く』
東日本大震災の後、「陸前高田災害FM」のパーソナリティを約3年半務めた阿部裕美さんを追ったドキュメンタリー映画。喋ること自体が持っている力を見せてもらった気がしました。声を聞くこととは。他者の、自分の、死者の、そして未来の。ゆっくり考えながら生きたいと思いました。
・guca owl『Working Class King Tour』10/3,Zepp DiverCity
東大阪出身のラッパーguca owlのワンマンライブ。フリースタイルバトルでもなく、少し前まで流行りに流行っていたトラップにありがちなビートアプローチでもなく、独特な節回しと言葉使いで、なおかつ派手な客演などもせずにのし上ってきたそのスタイルがめちゃくちゃ格好いい。自分より10歳くらい年下なので1人でライブに行くのはなかなか勇気がいるなぁと思っていたけどこれは行けて良かった。大人になっていくことに対するなんとも言えない気持ちが詰まったような時間と空間に、少し大人の側から混ぜてもらったような感覚。誰に感謝すればいいか分からないけど混ぜてもらってありがたかった夜。MCもほぼなし、客演もアンコールもなし、こんな潔いライブはなかなか無い。個人的に今年のハイライトの夜でした。
・北海道と沖縄
土地をめぐる人々の歴史を考えようと思い、2月に北海道へ、6月に沖縄本島へ、それぞれ10日間の旅に出ました。頭で知っていることでも、実際に歩いて、見て、車や原付で移動してみて、そうやって出来るだけ実感に近いところに言葉を落としていけたらと思っています。
・ベトナム戦争についての本
最近は、開高健『輝ける闇』『夏の闇』、石川文洋『戦場カメラマン』などベトナム戦争についての本を読んでいます。ディランなどはもちろん、黒人音楽やアメリカン・ニューシネマなどベトナム反戦運動の影響を強く受けたとされるカルチャーを10代後半ごろから好んで観たり聴いたりしてきた自覚があるのですが、カルチャー面だけを消費している自分の立場とは何ぞやと考えることが多かったからです。それは沖縄に行ったことも大きく関係していると思います。そうしたカルチャー側だけを本土にいて消費できてしまうこと自体を考え直さないとなぁと思っています。ほんとうに今更ですみません…という感じなのだけど…。最近、盛り上がっているアジアの音楽に対してもそうした視点を失わないようにしたい。
・小野和子『あいたくて ききたくて 旅に出る』
50年以上、東北地方の村々を訪ねて昔話や民話を聞いて回っている小野和子さんの1冊。自然の中や人の心や人間関係の中の割り切れない箇所を、昔の人はフシギな話に溶かしていたのかなぁなんて感じるのですが、この本を読んでいるとそれは遠い昔の話ではなくて例えば祖父母の子どもの頃などのごく最近のことだったことが伝わってきます。時代の発展とともにそういうフシギなものがどんどんどんどん綺麗で透明で分かりやすいものと置き換わってるのだと感じる。それってどうなのだろう。昔の方が…という話ではなくて、人の認識の仕方がどう変わっていっているのかに興味があります。小野さんが登場する濱口監督の映画『うたうひと』が近所の下高井戸シネマでやっていたのですが、見逃してしまったのがとても残念。
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冒頭の続けることができて良かった、と言う話の詳細はまた別のところで形にできればと思ってるのですが、少しだけ触れると、店舗となるテナントを借りたのが2020年12月。3年間の契約だったのでちょうど1年前の2023年12月にその契約が終わりました。その際にいろいろな事情があってとりあえず1年の契約更新となりました。つまり今年の12月迄。
今年1年は、なんとかその諸事情をクリアしてこの場所でお店を続けるべく、相談やお願いをして回っていました。そしてなんとか来年もお店を続けられることになった、そんな1年でした。
続けるために大きな決断をして、金銭的な面で言うとこれまでの賃料の3倍以上の額を毎月支払わないといけなくなってしまいました。とりあえず11月と12月は払えた。ということは今までの3年間どこにお金が消えていっていたのだろう、、とフシギになるのですが…。これまでのこともこれからのことも考え過ぎると本当に吐きそうになるので、あまり考えないようにしています。
それに伴って、お店の2階部分の8畳ほどの小部屋を、バックパックブックスの隣のomiyageの店主・ロボ宙さんと一緒に使えるようにしました。これから小さなイベントや上映会など企画していく予定です。もしご興味ある方がいましたらぜひ覗きに来てみてたり、声をかけてもらえたりしたら嬉しいです!
最後の2ヶ月ほどはこの1年間の経緯の報告も兼ねて、大阪、つくば、などなどに人を訪ねていました。なんというか、すこしだけボーナスタイムみたいな感覚で、大事な人とくだらない話をしながら酒を飲めて本当に良かったなぁという日々です。来年は、今年遠ざかってしまった登山、ずっとできていなかったラップにきちんと向き合いたいと思います。何ができるか、どこへ行けるか分かりませんが、側から見れば格好の悪くてみっともない踊りを、無様なりに踊れたらなぁと思っています。
今回の機会をいただいて、なんだか自分の中に2024年が定着していく感じがしました。ありがとうございました。読んでくださった方とも植田さんとも2025年どこかでお会いできましたら!