2025/06/13

6/13 店日誌

6月13日、金曜日。歩道をゆく彼を見つけて思わず駆け出す。高妍『隙間 sukima』を持って「これ、読んだ! 台湾のことなにも知らなかったよ」と伝えるとニコリと微笑んで「嬉しいです。この作者は若い人ですよ」と教えてくれる。彼以外にも台湾から留学していた友人はいたし、中国との関係について書いているのを目にしたこともあったけど、積極的に興味は持たず「大変だなー」と受け流していた。その点、『隙間』の大きな要素は台湾と沖縄、中国と日本の絡み合うさまを描いていること。やさしい絵なのだが、全体に漂う哀しみは強く、確かなものだった。

彼、と書いてて、彼の名前も知らないと気がつく。よく顔を合わせるから、次に会ったときに聞いてみよう。しっかり覚えて、その次からは名前で呼びかけられるようにできたらいい。

文章は読者を威圧することがあってはならない。だかこれはむずかしい。文章を書くよりむずかしいことかもしれない。それには何も書かないのが一番だとすら思う。書かなければ威圧にも荷物にもならない。(荒川洋治)*

図書館で借りてきた荒川洋治『ぼくの文章読本』を読み出して、考えさせられる。こんな風に毎日ここに書く必要などないのである。なにかを書くために他人を上げたり下げたりするのはおかしい。黙っている方がよほど良い。それをわかった上で書き続けるなら、よく考えて、よく観察しなくちゃいけない。うーむ、なかなか難しい。(*荒川洋治『ぼくの文章読本』所収「おかのうえの波」より)

今日も通常営業。通信販売や在庫確認など、お問い合わせはお気軽に。

2025/06/12

6/12 店日誌

阿房と云うのは、人の思わくに調子を合わせてそう云うだけの話で、自分で勿論阿房だなどと考えてはいない。用事がなければどこへも行ってはいけないと云うわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。(内田百閒)

6月12日、木曜日。なんと素晴らしい書き出しだろうか。内田百閒『阿房列車』(ちくま文庫版・内田百閒集成1)の冒頭、「特別阿房列車」に胸がときめく。さあ、グイグイ読むぞと意気込むと、これがなかなか難しい。テンポが合わない。切符を買うのに手こずり、同行者と問答したのち昼酒を飲み出す。ビールを飲むグループを嫌悪しながら、自分もウイスキーを飲む。なんとも狷介、偏屈な百閒なのだが、嫌ではない。むしろ面白いのだけれど、ページはなかなか進まない。

「時候がよくなって、天も地も明かるい。又阿房列車を運転しようと思う」。次なる「区間阿房列車」の書き出しも好ましくて、ワクワクする。でも、スムーズに読んでいける自信はない。約70ページ。焦らずに進もう。

ついさっきコンビニで見かけたポパイの特集は「僕らにちょうどいい古着」。自分は特別に古着が好きなわけじゃないけど、最近は〈古着屋may〉でしか服を買ってない。気取らず、気張らずに服を選べる環境があるのがありがたい。さて、「ちょうどいい古着」とは何なのか。値段? 品質? 年代? それらのバランスってことなのだろうか。

今日も通常営業。古本はもちろん、新譜や中古音源にも入荷あり。

2025/06/11

6/11 店日誌

驚異のリズム、爆発するロック。(…)ポップス史上でも、リズムに関しては最も革命的な1枚だが、全体の印象は地味。ここまでのアイランド作品がアグレッシヴだったのに対して、ちょっと引いてみせた、渋い通好みの作品とは言えまいか。(山名昇)

6月11日、水曜日。数日前に天久保1丁目〈Good Near Records〉で購入したボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『ラスタマン・ヴァイブレーション』は確かに地味なのだが、厳選された音数もあってタイトな体感がある。耳に入ってくるのはアイ・スリーズの伸びやかなコーラス、チナ・スミスの手数の少ないギター・フレーズ、タイロン・ダウニーの機械的なキーボード。バレット兄弟のリズムの上で、隙間をつくって泳がせてみたって感じなのだろうか。霊性のあるヴォーカルは書くまでもなく、特別だ。

上に引いた山名昇の解説は、アンチョコ的に活用してる石井’EC’志津男(編)『レゲエ・ディスク・ガイド』の当該ページから。短くも的確、意外性もふくむテキストは「実はジャケットもこれが一番好きだ」と閉められる。

朝から本降り。こうなると店は暇だろうなあ。いい本たくさん買い取ってるんだけどなあ。ジメジメしてないだけ、よしとするべきか。オンライン・ストア〈平凡〉にどんどん古本をあげていくので、気が向いたら覗いてほしい。

今日明日、明後日は15時開店。些細なことでも、お問い合わせはお気軽に。

2025/06/10

6/10 雑記

ぼくは広告が嫌いだ。まだみんなが何も知らない時に、むりやりみんなに押しつけるようなやり方は好きじゃないんだ。いいレコードなら、自然といつのまにかみんなが聞くようになると思う。世に送り出し、時にまかせて、どうなるか成り行きを見守るのさ。(ウィリス・アラン・ラムゼイ)

あれはいつだったか。矢吹純から突然、レコードが送られてきた。ウィリス・アラン・ラムゼイという人が吹き込んだもので、緑地のジャケットにはニヤリとした本人と思われる写真のみ。いささか地味な印象をもったが、針を落として「いいじゃん」と思い、矢吹くんに感謝を伝えた。そのまま2〜3年は経っただろうか。今朝になって急に目に入ったレコードを聴いてみて、驚く。すごくいい。裏面記載の中川五郎の解説にも味わいがある。

ウィリス・アラン・ラムゼイのこうしたやり方は、確かに歌を大切にしたものだし、永続きするかも知れない。しかし一方、贅沢すぎる、あまりにもプロ意識に欠けているという批判も甘受しなければならないだろう。(…)早く新しい作品を聞かせてほしいものだ。(中川五郎)

けっきょく、この人──ウィリス・アラン・ラムゼイはこの1枚しかレコードを作らなかったらしい。小西康陽の連作エッセイ「レナード・コーエンの偽日記から。」にも似たような人物が描かれていた気がする。

2025/06/09

6/9 店日誌

私たちはどうしても、すべての行動を目標に向かう時間に置き換えてしまいます。大切なのは、この思考から脱却することです。つまりは「輸送(Transport)」から「徒歩旅行(Wayfarning)」への変化。

美しい夕陽を見かけると、すぐにスマートフォンを取り出して、写真を撮ってしまう。時間をかけて眺めたり、誰かに話したりすることもなく、ただ写真を撮ってそれで終わり。まるで、過去をゴミ箱に捨ててしまっているようです。(ティム・インゴルド)

6月9日、月曜日。3年前のある日、突然届いた大きな段ボール。入っていたのは『AFTER2025』という無料冊子だった。「AFTER2025は「ぶっちゃけ万博どうなん?」と「どうせやるんやったら……」のあいだを、今を生きる人たちの声をたよりに、うろうろしながら、あれこれやってみる試みです」。へええ、なるほど! こりゃ面白そうと読み出して、見つけたのが上記したティム・インゴルドへのインタビュー。なぜか今、思い出した。

東京五輪、大阪万博はなんだかんだで開催されて、おおむね成功みたいな風に片づけられていく。経済効果? 観光誘致? なんてスローガンだけが叫ばれて、国家的催事が行われていくのは好きじゃないけど、大きな声で反対するほどの興味もない。ああ、なんだかなあ。

6日から8日までの3日間、筑波大学で開催されていた「文化人類学会」に参加した人が何組か店に来てくれて、それぞれに手ごたえのあるやり取りができた気がする。ああした催しと営業が連動するのは初めてじゃないかな。

今日も通常営業。オンライン・ストア〈平凡〉にもご注目を。

2025/06/08

6/8 店日誌

6月8日、日曜日。店にきて値付け、品出し、オンライン・ストア用の写真を撮りながらラジオで「のど自慢」を聴いていたら12時51分。今日は青森県からの中継で、ゲストの王林が「踊るりんご」を歌っていて、次は山本譲二。やはりいい声。吉幾三がつくった「妻よありがとう」を熱唱している。ゲスト2人の参加者へのコメントには優しさがあり、みんな嬉しそうに話していた。さて、審査発表。特別賞は15番、「君は薔薇より美しい」を歌った人だ! よかったもんな〜!

ここ、前からありました? なんて聞かれることが増えている。もう12年、13年目になります……と応えると「え! 気づいてなかったー!」と反応される。そうやって話す人は大体いいお客さん。またお願いしますと声をかけて、送り出す。

今日明日の営業は13時から19時まで。古本入荷、めちゃ増えてます。

2025/06/07

6/7 店日誌

6月7日、土曜日。いい天気。気分よく自転車を走らせてると、前方を歩く長髪、ジーパン、ジャケットの男性が目に入る。オシャレな人だなーと追い抜くと、なんと! ベーヤマくんじゃん! フランス留学の合間をぬって、ビザ申請と文化人類学会参加のために一時帰国中とのこと。近しい間柄じゃないし、とくだん心配していたわけじゃないけど、なんとなく元気そうで安心した。いい雰囲気をまとっていた。

大学を抜けたのち、〈古着屋may〉で立ち話。夏に向けて、プリントTやポケットTシャツの種類が増えていて、店内の抜けがいい。最近、店にいて楽しいですか? なんて唐突かつ率直な問いかけにホソヤさんは丁寧に応えてくれる。そのうちにお客さんがきて、店を出てきた。

NOOLIO『SIDE.C Classics』の過去作を気まぐれに聴いている。どれも本当によく出来てる。曲と曲とが繋がって生まれる空気、相互に作用するヴァイブレーション、全体のイメージ作りにブレがないから流していて気持ちがいいんだな。

今日明日、明後日は通常営業! お暇があればお出かけください。