2025/02/15

2/15 店日誌

2月15日、土曜日。数日前に強風が吹いたらしい。つくばエクスプレスが止まってると聞いて、なんとなく知った気でいたのだが、帰ってきて驚いた。筑波大のなかは折れた枝だらけ。かなり大ぶりのものも歩道に散らばっていて、歩くのに難儀する。いざ帰宅すると、玄関はもちろん風呂場、洗面所が砂だらけ。濡れ縁にだしていた植物がふっと飛んでいて、器が割れている。とてもじゃないが掃ききれないし、水で流しても、よほど注意しないと砂が残る。風が吹いたのは一昨日? その日はどんな状況だったのだろうか。

たいていの人はプロスポーツが好きだがおれは全然興味ない。日々自分と戦ってるおれには人の戦いを応援してる余裕がないのだ。/ちなみに自分との戦いは連敗記録更新中。いま、この瞬間もおれは負けてる。(キングジョー)

今はキングジョーのテキストが救いである。上手くいってることなんか多くない。それどころか、小さな失敗を積み上げるばかりの日々にあって、ジョーさんの言葉から漏れでている何かが、オレの魂を震わせる。

キングジョー/松本亀吉『Peace Piece』は当店にも近日中に入荷予定。刊行されたのは去年だけど、今だからこそ読んでほしい、おすすめしたいZINEである(松本亀吉サイドもめちゃ素晴らしい!)。

今日は通常営業! 13時から20時まで開けているので、お暇があればお出かけを。

2025/02/14

奈良〜京都滞在記⑤

2月14日。7時台に外に出て、興福寺周辺まで歩いて気がつく。普段ならば池周辺でどーんと目に入る五重塔が改修中で、素屋根(布? 幕? のようなもの)で覆われている。眼か脳のスケールがくるうようで、街の雰囲気がだいぶ異なる。

9時過ぎに奈良を出発、11時10分発の新幹線に乗り換えて、東京に向かう。ブログを書いたりメール、DMの返信をするうち名古屋、浜松、三嶋と過ぎていく。やはり、こだまの速度がちょうどいい。少し寝ると新横浜。あっという間に東京着。外の暖気、人混みに戸惑うも、どうにかすり抜け秋葉原駅を目指すべく歩き出した……はず、だったのだが。

世界はもっと豊かでもっと自由なはず、そう思いたい。探しに行こう、待ち合わせよう。魂を売り渡すなら、ブルースが欲しいなら。…岸里交差点で待ってるからよ、毎晩! (キングジョー)

唐突だけれどキングジョーさんの言葉を借りて、無理矢理に締める。奈良〜京都滞在記はこれにて閉幕! ありがとうございました!

奈良〜京都滞在記④

2月13日。軽い朝食を摂って、外に出る。7時台の空気がパリッとして気持ちがいい。通勤、通学の人といっしょに歩いて、ならまち商店街を抜けていく。スターバックスなんかのある観光地を過ぎると人が減る。すいすい歩いていくと、鹿。鹿。鹿。通勤の車も彼らのペースに合わせて、信号がなくても停車する。あちこちに糞が散らばる。春日大社にもたくさんの鹿。荘厳な空気が流れる社内を歩くのが気持ちいい。大木、古い社、植物園。進んでいくほどに色合が深くなる。若草山をこえると三月堂、二月堂。オフシーズンかつ朝だからか、どこも人が少なくて快適だ。ちょこちょこ歩いて新薬師寺、旧志賀直哉邸周辺のあたりから駅方面に歩き出す。

近年屈指の大ハズレの昼食にぶつかり意気消沈。ホテルの部屋で「とにかく疲れた」「もう帰りたい」なんて呟いてベッドに沈みかけるも「待て! 行ってないところがあるだろ!」と心の声が響いて、ガバリと起きて部屋を飛び出す。奈良駅まで小走りで5分弱、ちょうど来ていた電車に乗車、乗り換え駅の久宝寺までの車窓風景をみてるだけでドキドキ、ワクワク。果たして今日はやってるのか、定休日じゃないけど早仕舞もあり得るぞ。いやいやきっと大丈夫。気持ちが早って本を手に取る余裕もない。

おおさか東線に乗って、目指すは淡路(途中に「放出」と書いて「はなてん」と読む駅があった!)。JR淡路駅で降車、駅前の地図をみて歩き出すも、なんか違う。ちかくにあった交番で方角を正され、ざっくりした道ゆきを教えてもらう。淡路4丁目18-13を探してウロウロしてると、あった! あれが〈タラウマラ〉だ! 入店してすぐ「植田さんでしょ!」と店主土井さんが気づいてくれて、店内にいた先客2人に紹介される。ちょうど今、ジョーさんとシノさんとレコード聴いてたとこで……え、ジョーさん! もしかして、キングジョーさんですか。そうです。これにはびっくり。上気したまま棚をみて古本を数冊、キングジョー/松本亀吉『Peace Piece』、何枚かの音盤を購入。

ジョーさんの選曲はタイ産7インチ等々のワールドミュージック中心(というか、この日の集まりは定例の「ワールドミュージックを聴く会」だったらしい)。ちょうど聴かせてもらった2枚のB面はダブになってて、これが最高。音数がしぼられて奇妙なのに神秘的。その間も店には自転車修理を頼みにくるおばあさん、近所のカレー店で働く人などがきて、土井さんがフラットに対応している。うーん、やはり特別だ。こんな自転車屋は他に知らない。

ジョーさんにサインをもらって、挨拶を済ませて店を出る。淡路の商店街は喫茶店、たこ焼き屋、立ち飲み屋なんかが連なっていて、いちいち足が止まりそうになるのだが、振り切って駅を目指す。首尾よく目当ての電車に乗れて一安心。買ったばかりの『Peace Piece』を読みだすと、めちゃ面白くて止まらない。タラウマラに来れただけでも充分なのに、キングジョーさんにも会えるとは。じーんとした高揚に包まれたまま、奈良駅に到着。

地元に人以外まず行かないであろう〈ジャンたこ〉で一服、その後に覗いた〈蔵〉は「臨時営業」(!)。入店するとちょうどいい具合の客入り。無理ない量の酒と飯をとり、しっぽりとした時間に浸る。

2025/02/13

奈良〜京都滞在記③

ホテルで一休み、体勢を整えて再出発。電車に乗って京都に向かう。JR奈良線で東福寺、京阪に乗り換えて神宮丸太町。地上に上がって鴨川にかかる橋を渡って少し歩くと〈誠光社〉が見えてくる。文庫本を1冊買って〈アイタルガボン〉のソファ席でパニーニ、サラダ(とビール)でひと息。カッコつけ過ぎず、反骨心を感じさせるいいお店。食事も美味しい。しばらくゆっくりしたのち街へ出ると小雨が降ってくる。傘はなくても平気だが、歩道をビュンビュン走る自転車が怖い。傘差し運転はやめてほしい。

20分ほど歩いて目的地の〈拾得〉に到着。今回の大目的! オクノ修さんのライブには、開場前から人がちらほら。拾得の若いスタッフが丁寧に案内してくれ整理番号順に入場、座敷席を確保してビールを注文。隣の男性、女性の顔を見たことがある気がするが、声はかけず。数杯の酒を飲む。すぐ近くに座るオクノさんにサインをもらったり、トイレに行ったりするうちに田口史人さんの顔を見つけて、ご挨拶。あれ、なんで! 彦根にも寄ったらいいのに! なんて話してるときに、Hand Saw Pressの小田さんもきて、会釈をする。

客の平均年齢は高いけど、自立した大人がしっかり来てる。自分と同世代か、若い人、なにがしかの店を営んでいるような人もいる。拾得やオクノ修が象徴する、京都の街が育んできた文化への敬意が感じられて、頼もしい。どこか、少しだけうらやましい。

19時ちょうどに開演。72歳のオクノさんが歌い出すと、20代か30代、いやいや40代か? 明確な数字にこだわるのは野暮だけれど、明らかに実年齢より若くなる。ステージでの話には諧謔の気があり、やんわりと下ネタ気味。指がつってしまうか歌詞を忘れたら、途中で止めますと最初に言ったけど90分間歌い切った姿は自然で、ほのかな色気も漂う。アンコールはなくても、端々でオクノ修の美意識が感じられた。こんな洒脱な大人がいるなら、歳をかさねるのも悪くない。

終演後すぐ会場を出て、神宮丸太町の駅まで歩く。21時20分過ぎの京阪に乗り、東福寺で乗り換えて、奈良駅へ。すでに眠いが、重たい身体をひきずって、どうにかホテル着。風呂に入ってからブログを書いたり、メールの返信などするうちに0時半。ベッドに倒れこんで即就寝。

奈良〜京都滞在記②

2月12日。朝イチでホテル自慢の温泉に入ってみるも、ああやっぱり! 浴槽にただよう塩素の匂い。これは雰囲気ありげな大浴場で温泉じゃない。不平を言っても仕方ないのでしばらく浸かる。途中からほぼ貸切り状態。6時半前には部屋に戻り、簡単な朝食を摂る。さっさと着替えて7時台の電車に乗って法隆寺を目指す。

JR法隆寺駅に着いて、気分で道を選びつつ歩いていくと8時過ぎに到着。拝観料を払って寺院に入るとシーン………としてる。砂利を整える作業音、朝の挨拶が耳に入るくらいでガヤガヤした声は皆無。絶好の機会とばかりに、西院伽藍~大宝蔵院〜夢殿と順路を丹念にたどる。途中何度か係員(学芸員っぽく立っている)に疑問をぶつけると、柔らかく応じてくれて、なるほど〜なんて話してまた興味がふくらむ。その後、中宮寺の如意輪観世音菩薩に対面、静かな時間を過ごす。

気がつけばたっぷり2時間、法隆寺に浸っていた。休憩所でちょっと休んだのち法隆寺駅に引き返す。車通りの少ない道をのんびり選んでいくと、駅近くに〈クッパの店 一平ちゃん〉を発見。飲み屋がつらなるコンテナ? 箱のようなテナントに小さなカウンター、店主と思わしき男性が1人で準備中。開店前に通り過ぎ、用を済ませて戻ってみるとグッドタイミング! 並ばずに入店できた。省スペース、クッパ定食のみのメニュー、無駄のない接客に感心&安心してビールを1本。ここでもジワリと喜びを感じる。旅先で調べもせずにいい店に出会えると、めちゃくちゃ嬉しい。

電車に乗って再び奈良駅。なじみの喫茶店〈音楽と珈琲〉に顔を出して、店主とかるく話し出すと次々に来客。外国人観光客も少なくない。程よい音量で流れるジャズにコーヒー、小さなドーナツを食して退店。あんまり話せなかったけど、いい店になってるな〜と、反芻しながらホテルに帰る。

2025/02/12

奈良~京都滞在記①

2月11日。いつも通りの時間に起きて、準備をする。9時出発。歩いて15分ほどのバス停からつくば駅、始発の快速に乗って秋葉原駅に10時35分着。神田須田町、神保町、大手町をつなぐように東京駅まで歩いていく。集団ではしる人たち、〈まつや〉の行列を横目に歩を進めると、街がゴミゴミしてくる。東京駅周辺、構内は外国人観光客の姿が目立つ。改札をぬけ、混雑するホームで何本か電車を見送って、11時57分発のこだまに乗車。ビジネス車両はガラガラ。座席を倒して、発車と同時にビールを開ける。

その頃、私は小田原へ永住の覚悟で引き揚げてきていた。これまでのように東京を喰い詰めた為ではなかった。プロレタリア文学もようやく退潮し、既成作家達が息を吹き返して書き出すにつれ、私も久しく捨てて顧みなかったペンをとり、(…)再び一ツ覚えの「私小説」をつくり初め、文芸誌あたりからたまには作品を依頼されるはこびともなった。(川崎長太郎)*

川崎長太郎『淡雪』を読み、寝て、起きると小田原。また寝て、起きると新富士。窓から富士山が大きく見える。各駅停車がちょうどいい。車内の雰囲気ものんびりしていて居心地がいい。京都の手前、米原あたりはかなり雪が残っている。遠目にみえる山も真っ白。京都に雪はなく、建物ばかり。チャンチャンと乗り換えて、JR奈良線に乗ったのは15時半過ぎ。観光客にまざって奈良に向かう(ここで田中小実昌エッセイ・コレクション『旅』に読み替える)。

奈良駅到着。はじめて西口に出て、すぐ近くのホテルにチェックイン。16時半過ぎの街は人が少ない。大袈裟でなくつくば駅周辺の方が人が多いかも……と感じるが、まあ歩きやすくて気分がいい。お目当ての酒場〈蔵〉までは徒歩15分。最短距離でたどり着き、引き戸を開けるとちょうど席が空いたところ。ちょうどよかったですわ〜と迎えられ、ジワリと心暖まる。蔵のの接客は絶妙という他ない。

酒は飲むべし、飲まれるべからず、と言うけれども、ぼくは酔っぱらうまで飲む。そこがこまったことなのだろう。酒が好きで飲むだけではない、酔っぱらわないと、おちつかない。酔っぱらうと、おちつかない人もいるのに……。(田中小実昌)*

*「亡友」p.140/『淡雪』より *「ヨーヨーをもった少年」p.18/『田中小実昌エッセイ・コレクション2』より

2025/02/11

連休

2月11日(火)、12日(水)、13日(木)、14日(金)は休みます。