これは、出来れば売りたくない。手にしてすぐにそう思った。
開くページ、どれもがいい。写真に付けられたキャプション、項目ごとの言葉選び、細かなところまで意味を持って配置されている。だから、無作為に本を広げても、そのページから楽しめてしまう。すごい本。誰が作ったのか・・・と巻末に記された編集後記を追ってみると、その記名には「H.M」とある。もしや、と勘がはたらきその横のスタッフクレジットを注視してみる。あった。やっぱりこの名前、森永博志。
名編集者、森永博志氏が手がけた『エスクァイア日本版・1998年10月臨時増刊号』で取り上げるのは、アメリカ西海岸にたたずむ小都市ヴェンチュラ発のアウトドアブランド「patagonia」。そのブランド一つで、1950年代から90年代末までのアメリカにおけるカウンター・カルチュアの在り方をまとめ、編み上げる手腕はお見事としか言いようがない。文字面だけの運動(ムーヴメント)ではなく、歩き、眠り、食べる存在としての人を通して描写されるので、読みながら対象に心を寄せやすい。
表紙にずばっと刻まれた「遊ばざる者、働くべからず」。この絶妙の反語に心が動くような人にこそ、読んでみてほしい。きっと何かを始めたくなるはずだから。ページを捲ると、じっとしていられなくなる雑誌、そういうものがもっと増えてもいい。そう信じる自分にとって、とても嬉しい入荷です。
0 件のコメント:
コメントを投稿