2月13日。軽い朝食を摂って、外に出る。7時台の空気がパリッとして気持ちがいい。通勤、通学の人といっしょに歩いて、ならまち商店街を抜けていく。スターバックスなんかのある観光地を過ぎると人が減る。すいすい歩いていくと、鹿。鹿。鹿。通勤の車も彼らのペースに合わせて、信号がなくても停車する。あちこちに糞が散らばる。奈良公園にもたくさんの鹿。荘厳な空気が流れる社内を歩くのが気持ちいい。大木、古い社、植物園。進んでいくほどに色合が深くなる。若草山をこえると三月堂、二月堂。オフシーズンかつ朝だからか、どこも人が少なくて快適だ。ちょこちょこ歩いて新薬師寺、旧志賀直哉邸周辺のあたりから駅方面に歩き出す。
近年屈指の大ハズレの昼食にぶつかり意気消沈。ホテルの部屋で「とにかく疲れた」「もう帰りたい」なんて呟いてベッドに沈みかけるも「待て! 行ってないところがあるだろ!」と心の声が響いて、ガバリと起きて部屋を飛び出す。奈良駅まで小走りで5分弱、ちょうど来ていた電車に乗車、乗り換え駅の久宝寺までの車窓風景をみてるだけでドキドキ、ワクワク。果たして今日はやってるのか、定休日じゃないけど早仕舞もあり得るぞ。いやいやきっと大丈夫。気持ちが早って本を手に取る余裕もない。
おおさか東線に乗って、目指すは淡路(途中に「放出」と書いて「はなてん」と読む駅があった!)。JR淡路駅で降車、駅前の地図をみて歩き出すも、なんか違う。ちかくにあった交番で方角を正され、ざっくりした道ゆきを教えてもらう。淡路4丁目18-13を探してウロウロしてると、あった! あれが〈タラウマラ〉だ! 入店してすぐ「植田さんでしょ!」と店主土井さんが気づいてくれて、店内にいた先客2人に紹介される。ちょうど今、ジョーさんとシノさんとレコード聴いてたとこで……え、ジョーさん! もしかして、キングジョーさんですか。そうです。これにはびっくり。上気したまま棚をみて古本を数冊、キングジョー/松本亀吉『Peace Piece』、何枚かの音盤を購入。
ジョーさんの選曲はタイ産7インチ等々のワールドミュージック中心(というか、この日の集まりは定例の「ワールドミュージックを聴く会」だったらしい)。ちょうど聴かせてもらった2枚のB面はダブになってて、これが最高。音数がしぼられて奇妙なのに神秘的。その間も店には自転車修理を頼みにくるおばあさん、近所のカレー店で働く人などがきて、土井さんがフラットに対応している。うーん、やはり特別だ。こんな自転車屋は他に知らない。
ジョーさんにサインをもらって、挨拶を済ませて店を出る。淡路の商店街は喫茶店、たこ焼き屋、立ち飲み屋なんかが連なっていて、いちいち足が止まりそうになるのだが、振り切って駅を目指す。首尾よく目当ての電車に乗れて一安心。買ったばかりの『Peace Piece』を読みだすと、めちゃ面白くて止まらない。タラウマラに来れただけでも充分なのに、キングジョーさんにも会えるとは。じーんとした高揚に包まれたまま、奈良駅に到着。
地元に人以外まず行かないであろう〈ジャンたこ〉で一服、その後に覗いた〈蔵〉は「臨時営業」(!)。入店するとちょうどいい具合の客入り。無理ない量の酒と飯をとり、しっぽりとした時間に浸る。