2014/08/29

トーク・オデュッセイア第二歌にむけて・2


    2013年、『SUB』研究会は「研究会らしい」活動を行った。小島さんが『SUB』の次に創刊した雑誌『ドレッサージ』の編集者だった渡邊仁さんをはじめ、元神戸女学院大学の内田樹先生のゼミで出会った、さまざまな職業、年齢の方々に集まっていただくことができた。雑誌『団塊パンチ』(飛鳥新社、2006年)創刊号に載っていた「60年代の101冊を選ぶ」から各自が一冊を選び発表し合えたことは、大きくぼくの「心の断絶」を埋めてくれた。植草甚一、寺山修司、杉山登志、安井かずみ、サリンジャー、小林信彦。まだまだ知らないことがある。まだまだ「語り継ぐこと」がある。
 
『Get Back, SUB!』で描かれようとしているのは、「断絶の起源」の風景だ。『SUB』を手に取って眺めれば分かるけれど、そこには文学と音楽と美術と民藝が一体となっている、小島素治という人の生活がみえてくる。もしかするとぼくにとっての「本当」は、そこにあるのではないか。
 「『SUB』は、雑誌をつくっている人間にとって<踏み絵>だよ。」(『Get Back, SUB!』141頁)という後藤健夫氏(元『POPEYE』編集部)の言葉が深く印象に残っている。かつて禁教下の人びとは、十字架にかけられた男の絵を踏まされることで、己の宗旨を確認されたという。かつて自分にとっての「本当」を、禁止された時代があったのである。しかし一方で、その「教え」を伝えた人びとは大海原を旅してきたのだ。ぼくたちは『SUB』が休刊した、約40年後の世界を生きている。もうそろそろ、大事なものを踏まされるだけの日々から、おサラバしても良いのではないだろうか。出航の時はもう来ているのだ。
 
  オデュッセイアは、古代ギリシアの英雄オデュッセウスが地中海中を放浪する叙事詩である。60年代の終焉に抗うように船出したタウン誌の元祖『新宿プレイマップ』の元編集長、本間健彦さんの著書から発見した言葉「タウン・オデュッセイア」に触発されて生まれた「トーク・オデュッセイア」には、この言葉に含まれる「漂流」というニュアンスはない。むしろ、大型ガレー船に乗って各地の仲間を探し求める旅の過程をイメージしている。その船の名は『Get Back, SUB!』。北沢夏音船長のパッショネイトな指揮の下、ぼくたちはたまの座礁も考慮に入れて、そろーりそろーり進み出した。
 
今年3月8日に行われた第一歌は、トークに本間健彦さん、ポエトリー・リーディングに成田ヒロシさん、歌に前野健太さんをお迎えし、BIBLIOPHILIC & bookunion 新宿で行われた。まさに出航の宴という観を呈し、大盛り上がりの内に幕を閉じた。
 今回は、ぼくと同い年の植田浩平さんが主催するつくばのPEOPLEという港に錨を降ろして、やけのはらさんをお迎えする。お二人のお話のなかで、どんな「本当」の欠片が飛び出すのか。その欠片をキャッチすべく、今日もぼくはストレッチに余念がないのだ。

-青木真兵 / 『SUB』研究会
1983年東京都生まれ。関西大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。
専門は古代地中海史研究(フェニキア・カルタゴ)。関西大学文学部非常勤講師。『SUB』研究会主宰。    

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