2024/08/31

8/31 店日誌

冬の日はいつか暮れ、立籠める夕靄につつまれて、田原町の角に立っている高い仁丹の広告も、向側の猪料理の看板も、ネオンサインの赤い光がにじんだように薄らぎ、街灯の火影は立木の間に円くぼんやりとしている。(永井荷風)

8月31日、土曜日。目が覚めてすぐに読んだ、永井荷風「おもかげ」(林哲夫・編『喫茶店文学傑作選 苦く、甘く、熱く』所収)に引き込まれた。新吉原揚屋町の門前、竜泉寺町の牛飯屋の屋台から出てきた辻自動車(タクシーの旧名)の運転手二人が立ち話をはじめる……。

今だにぞめき歩く素見客(ひやかし)が途絶えないと見えて、それを呼び止める妓夫と女郎の声が、此処から彼方へと池の蛙のように湧起ってはまた静まる。折から手風琴(アコオジョン)とギタアとを伴奏(つれびき)にした門附の流行唄が、河岸店の間から聞えだした。

豊といわれた運転手が語り出す。「為さん。全く、おれの話をきいてくれるなァ、君くらいなもんだ」ときりだし、はじまるのは早逝した妻おのぶのこと、その妻によく似た顔の踊り子露子との出会い。小さく哀しい逸話が淡々と、情感をこめながら語られる。季節の移ろい(回想)、時間の流れ(現在)の描写をはさみつつ、朝を迎えて話は終わる。

二人の運転手は立って拍子木を鳴し歩く女郎屋の窓の方を眺めた。窓の火影は街の上の灯火と同じく、まだ夜のままの色をしているが、東雲の微光は東の空のはずれから一瞬ごとにひろがって来て、セメント造の家の壁や硝子窓ペンキ塗の看板なぞに反映して、白く塗られたものの色が、逸早く見え初める。

いやあ、なんとも。20ページの短篇になんとゆたかな色があることか。永井荷風の小説を読むのは2、3度目なのだけれど、ここまでグッときたのは初めてだ。自分の筆が立たなすぎてまったく説明が追いつかないので、気になった人はぜひ『喫茶店文学傑作選』にあたってみてほしい。いまなら新刊書店の中公文庫の棚に置かれているはず。

今日も通常営業。お出かけの際は無理なく、お気をつけて。

2024/08/30

8/30 店日誌

8月30日、金曜日。虫の声に触発されたのか、ゲロゲリゲゲゲが聴きたくなった。このバンド(ユニット?)のことはよく知らないのだけど、仄聞するに激烈なノイズを鳴らすらしい。たまたま自分が持っているレコードは『 > (decrescendo)』で、この作品はハピドラムというスティールパンに似た音色の楽器が独奏されるだけ。風が吹き虫が鳴く、たまに車も通り過ぎるなか録音された、とても静かなアルバムである。

夜明け前、月が出ていて夜はまだ明けないだろうと演奏していましたが、演奏を終えると夜は完全に明けていました。これも意図的ではありませんが、まさに夜明け前から夜が明ける絶妙な時間です。ハピドラム以外がいわゆる主人公の曲ですが、まさかそんな貴重な時間が演奏の主人公になってくれる事までは予想をしていませんでした。(山ノ内純太郎)

裏面記載のテキストによれば、この演奏が録音されたのは、2019年9月18日(5年前なら、もう秋めいていたのかもしれない)。時間の流れがそのまま刻まれたレコードに針を落とすと、聴いている部屋の時間がぐにゃ〜り、ゆがみ出すような感覚がある。それも、いたって自然で、まともな作用だと受け止められる。

それにしても雨が強い! ときにザーッっとくると、まわりの音がかき消される。そんな中で読んだのは、川崎大助『教養としてのパンク・ロック』。ちょっと前に届いた『DEBACLE PATH』別冊2で取り上げられていて、気になった。読んでみると、これが面白い! 昨日の午後から夜までに、あらかた読んでしまった。新書で約1300円は高いようだが、単行本でこの内容だと、たぶん2200円になる。形態と価格のバランス取りで格闘している人もいると知った。

とりあえず今日も通常営業。さーて、お客さんは来るのかな……。

2024/08/29

8/29 店日誌

8月29日、木曜日。Weather Report『Weather Report ‘81』のB面がとてもいい! ベースが主導するゆったりしたテンポにいろんな楽器が乗ってくる“DARA FACTOR ONE”から“PIPELINE”の流れが楽しい(ファンクでもレゲエでもない……妙な音像)。正直、フュージョンはいまだに苦手で、どう聴いていいのかよくわからない。でも、ウェザーリポートはアルバムよっては好きなのだ。事情通には怒られそうだが、変なバンドだなーと思って聴いている。できれば、音がドドドッと詰め込まれていない曲がいい。

ながいこと得意でなかった、ジャコ・パストリアスのベース・プレイ。ここに入ってる“SPEECHLESS”はいい。全体にメロウなのだけど、途中に入るヴォコーダーの音がやや不穏。どんなセンスでこうなるんだろうか。

近所のローソンにレターパックライトを買いにいくと、売り切れていた。午後には入ってますかね? と聞くと、今日は難しいですねえとのこと。こればかりは仕方ない。あまり好きでない別のコンビニに行くことにする(と思ったけど、確実な郵便局に行く)。

今日明日も通常営業。台風の具合、どうなのだろうか。

2024/08/28

8/28 店日誌

8月28日、水曜日。夏の終わりっぽい風が吹いていた朝、『沖縄 正調沖縄民謡のすべて』に針を落とす。“安里屋(あさどや)ユンタ”、“すぅーしすぅーさー”、“村興し”、“浜育ち”、“とばらーま”、“鷲の鳥節”、“守礼の島”といった曲が順番に流れる。どこか遠くに行きたいなあ……なんて感慨にとらわれて、ブログを見返すと2年前の今ごろは山梨に行っていたと思い出す。いくつかの出張を除いて、あのとき以来、何泊かの遠出はしていないのだ。過剰なストレスは感じていないが、店を開けることにこだわり過ぎているのかも。

先週末に届いたHAPPFAT『Mitime tape series 11~夏の背中~』を流していると、気持ちがいい。じわーっと身体をあたためる、ヌルめの温泉に似た作用がある。リラックスしていい音を浴びたい方には、これをすすめる。ダウンロード・コード付きのカセットテープ。

こちらは超限定入荷! SINSUKE FUJIEDA GROUP『PERSPECTIVE/FLYING STEPS』(7インチ)も今日から販売開始。オンライン・ストア〈平凡〉にあげるかどうか、迷っているところ。店にあるのはあと2枚。オクラ印のヒデさんから預かった手製アナログ・シングル。

今日明日は15時開店! 明後日はちょっと早く開けられるかも……。

2024/08/27

8/27 雑記

先週末から、UA『ハルトライブ』を繰り返し聴いている。アップルミュージックの解説によれば「2010年2月3日、新宿ピットインでの公開レコーディング・ライブ。わずか100人の観客の前で録音された13の歌は、まるで野生の生き物のように本能的な生命力に満ちている」。なるほど、たしかに野生的。手練れのプレーヤーが集ったバンドが生むグルーヴは原始的。ここぞのときに入ってくる女性コーラスも動物が鳴いているようで、スケールを広げる。

あらたに解釈された「プライベート サーファー」から「情熱」への流れは絶品。シブ〜く抑制を効かせた前者から一転、解放されたような後者は文句なしのカッコよさ! バンドの大波を乗りこなすように歌うUAがたくましい。サビ部分のラップ気味な言葉の落とし方にも痺れてしまう。

今日はまず柏、そのあと北千住にいく。先輩たちに会ってくるのだ。

2024/08/26

8/26 店日誌

8月26日、月曜日。午前中、理髪店〈Bespoke〉まで自転車を走らせて散髪。サッパリした頭で帰宅、シャワーを浴びて、扇風機にあたりながらカップ麺を一気に食べる。ラジオからは「昼のいこい」。この番組の醸し出す雰囲気、おっとりした空気が好きだ。日ごとのテーマにそった選曲もシブい(今日の1曲目は園まり「なんでもないわ」)。聴取者からの便りに季節感があるのも、とてもいい。

独自の姿勢をつらぬくパンク・マガジン『DEBACLE PATH』、約4年ぶりとなる刊行は『ハードコア・パンクの歌詞を読む』につづく別冊号。数日前の日誌にも書いたけど、パンク本座談会「「現場」からの『パンクの系譜学』批判を中心に」が面白い。この他、マルクス・ルンドストロム「スウェーデンでアナキズムとパンクが出会ったとき」などを収録。

暑さもだんだん和らいできたような……。届きたてのHAPPFAT『Mitime tape series 11~夏の背中~』のテーマは、終わりゆく夏。夕方の風のようなムードのミックステープ。やさしく身体をなでるような質感で、気持ちがいい。

今日も通常営業! オンライン・ストア〈平凡〉もよろしくどうぞ。

2024/08/25

8/25 店日誌

8月25日、日曜日。大きな祭にぶうぶう言うのはナンセンス。読んでいてイヤになったよーって声こそなかったけど、自分で読み直して呆れてしまった。思いつきの行数稼ぎとはいえ、もう少しうまく、気の利いたことを書くべきだよなあ……。なんて思い直したのは今日の朝。まつりつくばに出かける人はどうぞ楽しんで! そうでない人も、いい時間を過ごしてほしい。各自が工夫して気持ちよく過ごせば、いい日曜日になるだろう。自分は店で、作業をしつつ、お客さんを待つことにする。

近所に住んでいるソニックさん、大阪からきたカワブチさんがたまたま居合わせる。難波ベアーズ、新世界ブリッジ、山本精一などいくつかのキーワードをもとに話に花が咲く。最新号を納品にきたスペクテイター編集部の青野さんもまじえての会話はめちゃくちゃ濃かった(ソニックさんの最新号への反応もヴィヴィッドだった!)。

いくつかの新刊にくわえて、古本には日々入荷あり。音源では、HAPPFATの新作ミックステープがそろそろ届きそう。だいたいのものはオンライン・ストア〈平凡〉でも購入できるので、チェックしてほしい。

今日明日は13時から19時までの通常営業。お暇があれば、お出かけください。