2023/05/01

横浜出張記⑥(まとめ)

4月28日(金)・29日(土)・30日(日)の三日間、〈神奈川芸術劇場・大ホール〉で開催した「仕立て屋のサーカス・横浜公演」は各日とも盛況、公演内容にも一定の満足度があったと思う。ただ、不完全燃焼で終わった初日29日は残念。毎度のことではあれ、その日にしか足を運べない人がいる。初日の幕が開く前にメンバー間の意思疎通が十分にできていれば状況は変わるのだろうか。2日目以降の満足度を考えると、もったいない。

音楽、衣装、照明の組み合わせで、結成当初から注目を集めてきた「仕立て屋のサーカス」に、近年深みが増しているのは間違いない。あっという間に真似され消えていくお飾り的な選択をせず、自分たちなりの工夫、実践を続ける集団の一部になれることは、やはり嬉しい。

だからこそ、初日をもっと……と考えてしまうのだが、平均点を上げて局所的な爆発力がなくなってしまうとすると、すなおに首肯できない自分がいる。日によって当たり外れがある状態は観客にとってはフェアではない。でも、それが仕立て屋のサーカスの面白味、特殊性でもある。この折り合いをどう付けるかが、今後の(も)課題になるだろう。

この出張記はあくまで、仕立て屋のサーカスを長期間、近距離で見てきた者の印象記でしかない。もっと深く、豊かな表現で公演の模様を描写し批評できる人がいる。自分の身近にいる、あの人が観たらどう書くだろうか。次回以降、関東近郊の公演に誘ってみようと思っている。

参考記事:2022年12月「新宿出張記(仕立て屋のサーカス・東京公演記)」

横浜出張記⑤

12時開場。時間が早いからか、のんびりした雰囲気。小学生以下の子供も多い。力が入らない。今日はまあ、期待せずにいよう。と思ったのも束の間、本を手に取る人がじわじわと増えてくる。数年ぶりに会う常連の方、前日にも来ていた方とご挨拶、さっそく数冊購入する人もいる。先週、当店の周年パーティーに招いたYOSSY LITTLE NOISE WEAVERのお二人、ロボ宙さんも来てくれる。そんなこんなで開演時間。……が、すぐに始まらない。15分以上経って、ようやく大穂さんがお客さんに飴を配り始める。心配だったが反応よし。

前日と逆サイドに位置取って観た1部。緊張感のあるパフォーマンスながら、眠くなってしまう。ウトウトするうち、メンバー紹介(出店者と出演者)にうつり休憩に。さあ、もうひと頑張り! ってな感じで店に立つと次々に人が来る。みんな本を買っていく。安い本だけでない、比較的高額の本をまとめて買っていく人もいる。洲之内徹と吉田健一を手に取る女性、新刊、雑誌を気にする若者、とにかく切れ間なく人が来て本を買っていく。慌ただしくも、高揚する。一人ひとり、一冊ずつ、丁寧に会計をするよう心がけて送り出す。

あっという間に休憩が終わり、2部開演。冒頭の芳垣さん、大穂さんのかけ合いから力強い。コミカルな音を重ねあって、タイトなビートを生んでいく。スズキさんが大きく布を貼り、渡辺くんが光を当てる。いつも以上にスポットライトを激しく動かす。芳垣さんがリズムを変えると、大穂さんが朗読を始める。照明の動きも変わる。鍵盤の音がどんどん大きくなり、激しく楽器を打つ音がひびく。スモークが焚かれて舞台上は混沌とした雰囲気に。

やがて呑気な積み木遊びがはじまる。なのだが、ここで凄かったのは芳垣さん。ものすごい打楽器独奏を延々と10数分。そのかたわら、大穂さんは積み木を積んでいる。近くの子供に手伝わせたり、ひたすらに無意味。芳垣さんには一才関心を示さない。ただ、木を積み、遊ぶ。それが面白い。一般的なライブ、ステージではあり得ない状況をそれぞれが許容し共存している。これぞ、仕立て屋のサーカスの醍醐味である。

スズキさんが紙吹雪を巻き終えたあと、大きな布の構成をはじめる中でのかけ合い、大穂さんと芳垣さんのセッションが三日間の最高温度。ものすごい音圧。生命体のような布が造形され、光が落ちる。舞台は無人。余韻をはらみながら終演。

2023/04/30

横浜出張記④

4月30日。公演最終日。ホテルを出て郵便局に寄ったあと、近くのドトールコーヒーでジャーマンドッグとコーヒーを買う。10時頃に会場入り。Suzuki takayukiのスタッフでサーカスには欠かせない重要人物・少年とドトールに関する話で盛り上がる。彼が10代後半からの付き合いで自分はすっかり中年に。少年は立派な青年になった。その後もボランティア・スタッフの若者がレコードを買ってくれる。彼は24歳と言っていた。

店の準備を整えて、散歩に出る。大さん橋に足を向けたのは何年ぶりだろうか。20代前半の自分は時間とエネルギーを持て余し、ここのベンチで途方に暮れていた。

会場に戻って11時過ぎ。さあ、最終日はどうなるだろうか。

横浜出張記③

15時半に開場。昨日に増して本への反応がいい。こちらから多くの説明はせずとも、本を手にする人がつづく。一冊でも多く売るための言葉ではなく、お互いに感じたことを伝え合い、本を介してやり取りをする。この状況は「仕立て屋のサーカス」の会場ならでは。この場でしか会わない、名前も知らないままの常連さん数人とも話ができた(この方々は、いつも本か音源、何かしらを買ってくれる)。

17時ちょっと過ぎに開演。初日とはまるきり逆の角度から、ステージを観る。やはりスズキタカユキさんの身が軽い。のそっと現れて、布を触り出す。大工の大塚さんも昨日より存在感がある。曽我大穂さんは、いつも通り、されど鋭く音を出す。つよく叫ぶ。芳垣さんとのリズムのかけ合いがカッコ良い。既にあるようで、まだ世界のどこにもない表現。今、目の前でつくられている音楽。中々の緊張感だ。布がこすれ、木の音がひびく。光が全体をささえる。いい予感を保ったまま、1部が終了。

休憩のあいだも本への反応がいい。床に置いたトランクの中をガサゴソ漁って、本を買っていく人が多い。3枚まとめてCDを買う人もいた。カンパニー社刊行書籍に興味を示す人もちらほら。気がつけば、お隣〈パラダイス・アレイ〉のパンは売り切れていた。

客電が落ちながら、開演。前日とは異なり、一つ一つの要素を丁寧に扱っていく。芳垣さんの演奏も孤立せず、全体に溶け合っていく。大穂さんの朗読にも効果あり。布が広がり、光があたって影が踊る。ときにつよく楽器が鳴らされる。カンカン、カンカンと大工作業の音がひびく。ばらばらな要素が有機的にむすびつく。積み木遊びのパートもダレず、いい空気をつくる。演奏の熱量が極点まで上がって、パタンと収まる。弦楽器と鐘の音だけになり、終演。最後の最後、あと30秒拍手が遅ければ、もっといい余韻が生まれたはず。暗闇のなかで急ぎすぎた反応だった。……残念。

中華街でかるく飲み食いして、宿へ(殺伐とした店だった)。なんの気もなくテレビをつけると藤澤清造の顔、根津権現裏の文字。なんと、西村賢太の追悼番組が放送されている。終了後、シャワーを浴びて寝る。

2023/04/29

横浜出張記②

4月29日。9時過ぎに武蔵小杉を出発、10時前に〈神奈川芸術劇場〉着。荷物を置いて売り場を整える。昨晩の反省、手応えを活かしてレイアウトも変更する。その間に照明担当・渡辺敬之くんが来て、本を選んでいく。数冊をお取り置き。10時半過ぎに街に出る。なんとなく歩いて、横浜スタジアム、関内駅方面に向かう。少し迷うも馬車道に出て〈ディスクユニオン〉。開店直後に入ったにも関わらず、お客さんが多い! レジには行列。このお店はいつ来ても活気がある。熱に圧されて、そうそうに店を出る。

その後、伊勢佐木町に向かって歩く。この辺りはやっぱり面白い。ストロングゼロなどの缶チューハイ、缶ビールを持つ人があちこちにいて、大きな声で叫ぶ人もいる。ぱっと見で性別が分からない人、などなど。多様性に満ちた街区である。きっと、これでも静かになったんだろうな。古本屋をいくつか回る。

13時頃に会場に戻り、店を再度整える。リハーサルの合間に芳垣さんの声、話が聞こえてくる。渋みのある声だからか、つい耳を向けてしまう。舞台上の微調整、パフォーマンスの順序などを相談する様子を聞きながら、この出張記を書いている。

横浜出張記①

4月28日。午前中、店に来てスーツケースに本を詰める。既に二箱発送してあるので、前回までのようにパンパン、ギュウギュウにしないよう心がける。新刊から入れていって、古本、レコードを入れて完成。だいぶ少なくしたつもりだが、けっきょく重い。リュックを背負っていざ出発。

つくばエクスプレス〜東京メトロと乗り継いでいく。前日に買ったばかりの、小林信彦『読書中毒 ブックレシピ61』が面白い。副都心線がみなとみらい線に接続して、横浜に入ったあたりでほぼ読み終える。終点、元町・中華街駅で降りると、人が多い。平日ゆえか若者のグループが散見される。修学旅行か? ってくらいの大集団から友人たちの少グループまで。ながい、ながいコンコースを端まで歩いて地上に上がる。街もまた人! 浮かれ気分の若者たち。誰が悪い訳ではないのだが、毒づきながら通りを歩く。

会場〈神奈川芸術劇場〉に到着。エレベーターで上がって、大ホールに。ちょうどリハーサルの真っ最中。そろーと入って荷物置いて外に出る。歩けばすぐに山下公園。快晴、新緑、気持ちがいい。前回気に入った店に入って生ビール、パスタランチ。窓際の席で本の残りを読む。15時前にホールに戻り出店準備。お隣は雑貨店〈Aquvii〉、挨拶をしてお互い手を動かす。慣れているものの、やはり時間がかかる。16時半過ぎに準備完了。

曽我大穂さんと軽く話して、17時ちょい過ぎにドアが開く。サーカス出店でいちばん緊張するところ。ばらばらと入ってくる人たち、本に興味を持ってくれるだろうか。どんな風に声をかけようか。思案しながら立っていると、ぽつぽつと人が来る。へーって感じで通り過ぎる人が多いなか、じっと本を見つめる人がいる。一冊ずつ手に取って読んでいる。数冊を吟味して、ラニ・シン『ハリー・スミスは語る』と古本を一冊、ナイスチョイス! そこから、いいペースで本が売れていく。今日は大丈夫だなと安堵したあたりで、客電が落ちて一部開演。

ゲストの打楽器奏者・芳垣安洋さんの佇まいが決まっている。歌を口ずさみ、布を触っているだけで職人然とした雰囲気。スズキタカユキさんの役割が減って、いつもより軽やかに見える。照明の色数も抑えめで渋く進むパフォーマンス。率直に言えば、謎。何をやろうとしているのか読み切れない。でも、何かが始まりそうな気がして期待させる。ここ数回の公演でも出色の導入だった。音が止まり、恒例の出店者、メンバー紹介をして休憩。ここでもまた、本がいいペースで売れていく。

多要素がまとまらず、バラバラのまま進む2部。芳垣さんの演奏がすごい。細かい音でつくるビートがあれば低音を加えたリズムもある。圧倒されるが、仕立て屋のサーカスの舞台としては。どうなのか。やや単調な舞台に思えて、眠くなる時間もあった。大工も大塚さんの印象が薄い。たまに聞こえる作業音は印象的なのだけど。「木を叩く、布を叩く」と題して、目論んだ意志は感じた。バタバタと片付けをして、この日は終了。電車に乗り、武蔵小杉へ。

明日から、どう変わっていくのかが楽しみだ。

2023/04/28

4/28〜30 店休日誌

4月28日(金)・29日(土)・30日(日)は「仕立て屋のサーカス・横浜公演」に出店するため、店は休み。定休日をはさんで、5月2日(火)より営業再開(オンライン・ストア〈平凡〉の発送は5月1日(月)から再開予定)。