2024/12/21

12/21 店日誌

12月21日、土曜日。カウリスマキ生活、7日目。『ラヴィ・ド・ボエーム』に撃ち抜かれる。ラストでは涙こそ出なかったけど、心はじーんと痺れたまま。これまで観た中では最長の101分、中盤以降はニタニタできず、画面を見つめることしかできなった。パリで出会った作家、画家、作曲家(犬も一匹)。彼らは自由で貧乏、理想ばかりを追いかける。女も共に夢を見る。ボロが出て無理矢理に食いつないでも、限界が迫る───。

ガイド本『アキ・カウリスマキ』によれば、原作はアンリ・ミュルジェールの小説『ボヘミアン生活の情景』。カウリスマキにとっては念願に映画化だったらしい。『コンタクト・キラー』の主演俳優(ジャン=ピエール・レオー)など脇役にも知った顔が何人か。画家はいつものあの人、マッティ・ペロンパー。そろそろ名前を覚えたい。

オンライン・ストア〈平凡〉に入荷した、ジョンのサン『カップホルダー』はあっという間に完売(店頭在庫はちょびっとあり)。古山フウ『出産レポ漫画ほか』もどんどん売れていく。古本と組み合わせて買う人がいるのも嬉しい。

今日明日、明後日は13時開。些細なことでも、お問い合わせはお気軽に。

2024/12/20

12/20 店日誌

文章は書き出しが命だとおもっています。それと同じように、わたしにとっては映画のファーストシーンが重要なのでしょう。いま、なにかがはじまった。(…)よっぽどのことが起こらない限り、ストップせず、最後まで駆け抜ける。だからこそ、はじまりに立ち会うことは、映画の終わりを看取るより大切だと感じているのかもしれません。(相田冬二)

12月20日、金曜日。開店直後に、ジャズ録音日調査委員会(編)『日めくりジャズ 365(2025年版)』相田冬二『あなたがいるから』が同時に届く。開封検品して商品写真を撮影、オンライン・ストア〈平凡〉に上げる準備を整える。ツイッターで紹介すると後者の著者、相田冬二さんがさっそく反応してくれメールを交えてのやり取り。自費出版、インディーだからってわけじゃなく確かな温度を感じさせてくれる。こういうものを扱えるから、本屋は楽しい。

ほとんど間を置かずに、ジョンのサン『カップホルダー』オオヤミノル『珈琲の建設』『喫茶店のディスクール』も到着。縁あって仕入れたジョンのサンの新譜、これが面白い! 総勢14人からなるバンド? グループ? 得体が知れない。バラバラのようで一貫した姿勢を感じさせる16曲。オオヤミノルの2作は当店の定番。今までに何冊売ってきたのか、把握できてない。

昨日も暇ではあったけど、いろんなものが届いて落ち着く暇なし。閉店間際に植草甚一『ぼくの読書法』をぱらぱら読んで、一息ついた。

*

帰宅後に再生したのは『いとしのタチアナ』。カウリスマキ生活6日目にぴったりの尺、69分。コーヒー中毒と切れ間なく酒をのむ男ふたりが目的地なく車を走らせる。途中で拾った女性ふたりと、ろくな会話もせず移動を続ける。ホテルに泊まるも勝手に寝るだけ。ダンスもせず、座ってるだけ。……だけれど、心は動いてる。低速の恋。じわりと伝わるものがある。

開催中の数美亮平展《MONTH OF MAY》の会期は23日(月)まで。始まると、あっという間に日が経っていく。次の土日(21日・22日)どちらかで数美くんが在廊するかも。当店では、作品集やカセットテープを販売中。

今日は15時、明日明後日は13時開店。お暇があればご来店を。

2024/12/19

12/19 店日誌

12月19日、木曜日。夜風が冷たく人通りもほとんどない。昨日は20時前にさっさと閉店、帰宅後すぐにカップラーメン。ビールとポテトチップスを準備して『コンタクト・キラー』を再生した。カウリスマキ生活、5日目にしてロンドンに舞台が移る。ニーナ・シモン? いやビリー・ホリデイ。冒頭から音楽がいい。英国水道局に勤める主人公はなかなか口を開かず、上司から解雇を宣告される場面で最低限の声を出す。いきなり失職。カウリスマキ作品の定番と言える展開だ。

自暴自棄になる主人公の名前はアンリ・ブーランジェ、堅物のフランス人。みずから命を絶とうとするが、方法がおかしい。大真面目な人物が酒とタバコを覚えて、女と出会う。あっという間にチェンジ・マインド。どうにか生きようとジタバタもがくアンリを追う冷たい眼をした男はゴホゴホと咳をする。

簡素なバーで歌うジョー・ストラマーが若い、といっても30代後半か。リーゼントがよく似合う。カリプソが街の雰囲気に馴染んでて、“London is the place for me”なんてコンピレーションのタイトルが頭に浮かぶ。ホテルのフロント、郊外のダイナーの店主、脇役のオヤジたちが実にシブい(ガイド本によれば後者はセルジュ・レジアニ、「フランス映画史上伝説の俳優」とのこと)。

寒くて暇だと時間の流れが遅くなる。侘しい気持ちにもなるのだが、本を読むか、こうして映画でも観ていれば過度に落ち込むことはない。ウハウハな気分じゃないから、カウリスマキの映画を観たくなるのかな。

今日も通常営業! オンライン・ストア〈平凡〉もチェックよろしく。

2024/12/18

12/18 店日誌

12月18日、水曜日。昨日は『カラマリ・ユニオン』を観た。カウリスマキ生活、4日目にして困惑。出てくるのはカッコいい人ばかりで好きなシーンも多いし、音楽もいい。だけど、みんな同じ名前(フランク、フランク、フランク……)でバタバタ死ぬし、いきなり生き返ってたりして話の筋がつかめなかった。そもそも、あらすじを書くこと自体が無粋なわけで、こんな話だった! なんてわからなくていいのである。これから観ていく作品に繋がる部分があれば嬉しいし、なきゃないで構わない。

音楽、文学、映画からの引用に満ち、アキがこの時期ゴダールの影響を強く受けていたことが伺える。(宮嶋直美)

いつもの『アキ・カウリスマキ』(遠山純夫・編)をひもとき、なんとなく納得。答え合わせをしたいわけじゃなくても、少しスッキリ。ゴダール作品もろくに観ていない自分には、分かることは多くないのだが。

入荷した新譜レコード、買い取った本の紹介をするのは骨が折れる。せめて写真と簡単な内容だけでも……と思うと、ツイッターかインスタグラムのストーリーズに頼ることになる。仕入れたものをぞんざいには扱いたくないし、かと言って時間は限られてるしで、なかなか悩ましい。

今日明日、明後日は15時開店。年内営業は30日(月)まで、年始は4日(土)から営業します。

2024/12/17

12/17 店日誌

12月17日、火曜日。カウリスマキ生活、3日目。『マッチ工場の少女』を観る。冒頭、マッチ工場の機械を捉えたシーン。ガチャコン、ガチャコン、ザザーッと木片が加工されていく過程は社会科の授業みたい。ながい沈黙をやぶったのは誰だったか。登場人物ではなく、天安門事件を伝えるテレビのニュースだった気もする。無表情の母と父、タバコを吸うだけでほとんど声を発さない。暖かいはずのスープも冷たくみえる。少女は家に閉じ込められている。ダンスパーティーでも置いてけぼり。

給料日にドレスを衝動買いして、話が転がりだす。酷薄な裏切りが重なって、女の眼が変わる。許せない。アイツだけは。……ラストシーンの潔い背中を見送り、無音のエンドロールを眺めて「…ァァ」と声にならない、声が漏れる。

「ラストは暗いわけではない。イリスは社会から追放されて運が良かったんだ。何故ならそこはこれまで彼女が送ってきた人生よりマシだからだ」とアキは言う。(宮嶋直美)

最初に観た『パラダイスの夕暮れ』ではすっぱなレジ打ちを演じていた女性(カティ・オウティネン)が、見事に少女になっていた。役者だから、と言われても簡単には飲み込めない。それほどの変貌。音楽が流れ出すタイミングが絶妙で、端々でうなる。

定休日だけど、臨時短縮営業! 日本随一のカリプソバンド、カセットコンロス13年ぶりの新作『Calypso EXPRESS』(CD/LP)と、驚きの再発! 富岡多恵子『物語のようにふるさとは遠い』(LP)が本日発売。

てなわけで、13時から16時まで開けてます。お暇があればお出かけください。

2024/12/16

12/16 店日誌

12月16日、月曜日。カウリスマキ生活、2日目。ガイド本に導かれて「敗者3部作」の2作目とされる『真夜中の虹』を観た。真冬に炭鉱が閉山し、主人公に愛車──幌のつかないオープンカー──を譲った目上の友人は自裁する。南へ向かう移動のさなか、暴漢に襲われて大金を失うも、見ぐるみは剥がされず車も残る。なんだかんだあって流れ着いた女の家には子供がひとり。安息もつかのま、理不尽な出来事で刑務所入り。同室の男は……『パラダイスの夕暮れ』の主役の人だ! やっぱりいい顔してるんだ。

同室2人はほどなく脱獄、ブルース・ブラザーズみたいな格好で女と結婚。偽パスポートをつくるもトラブルのはずみで相方が刺される。瀕死の男が車の幌を作動させるシーンがとてもいい。なんだ屋根つくんじゃん!  とか言ってるうちに亡命用の船の前。ボートで向かっていくうち夜が明ける────。

劇中で流れるブルースのハマり方よ! 誰の何て曲かもわからないけど、どこかニール・ヤングに似た主人公が独歩する場面でのエレクトリック・ブルースが忘れられない。カウリスマキはDJのようでもある。

ただいま数美亮平展《MONTH OF MAY》開催中。数美くんが来ていた昨日は友人たちが来てワイワイしてるうち、あっという間に時間が過ぎた。会期中、もう一度くらいは数美くんが来てくれるはず(来られなくなる場合もあり)。

本の査定をしながら営業中! 些細なことでも、お問い合わせはお気軽に。

2024/12/15

12/15 店日誌

12月15日、日曜日。夕食後、なんとなく選んだのが、アキ・カウリスマキ監督作品『パラダイスの夕暮れ』。80分未満の短い尺に惹かれて見始めると、これが大正解。ウイリアム・エグルストン、スティーブン・ショアらのニューカラー派のような色彩と構図。ピアノ・ジャズ、ブルース、ペナペナした音のロックバラードを主にした選曲。役者の顔、街並み、乾いた空気。ぜんぶ好きだった。居間で、大きめのiPadで観るのにちょうどいい。

それまでの映画のスクリーンではなかなか見ることのできなかった人々といえるかもしれない。ヒーローやスターのいない映画。「敗者達も愛を必要としていること、そして人間性、尊厳、プライドについての映画」とアキは説明している。(宮嶋直美)

遠山純夫(編)『アキ・カウリスマキ』を引っ張り出して、納得。主役を演じる役者が『パターソン』のアダム・ドライバーに見えてくる理由もわかった。宮嶋直美さんの解説によれば「ジム・ジャームッシュは本作を「最も美しい映画の一本」と絶賛」とある。なるほど。着る服や歩き方なんかを参考にしたのかな。『パラダイスの夕暮れ』では、主人公の孤独を伴いながらの暮らしぶり、街や他者との距離感がうまく描かれていた。

1日1本か、それに近いペースで少しずつ観ていければいい。なんとなく劇場から遠ざかってしまった今、映画との付き合い方を見つけられた気がする。ひとまずカウリスマキ作品を追っていく。

某所から届いた3箱(これが超強力!)、他にもポツポツと本の持ち込みがあり古本の動きが活発になってきた。会計後に「よいお年を〜」と言われることも増えてきて、年末が近づいてきているのを実感する(ハァ、なにかとめんどくさい季節だな……)。

今日明日の営業は13時から19時まで。オンライン・ストア〈平凡〉にも入荷あり。