家の台所の、実家から持ってきた傷だらけのステンレスボウルが恋しかった。包丁の刃の痕が刻まれ、縁が黒ずんだまな板が、コンロの火に焼かれて底が煤色になった鍋が恋しかった。日々の生活の、しょうもない、どちらかと言えば煩わしいような、些細なことが恋しかった。(「細部に宿る」)
梶谷いこ『細部に宿る』が届きました。
2022年8月に新型コロナ・ウイルスに感染し自宅療養を経て京都府指定の療養施設で過ごした10日間で得た感慨、自身の気質を客観視して、生活の「細部」について書こうと思いたつ「細部に宿る」。そこから「ナムル」「茶碗蒸し」「餅」「モーニング」などをテーマに文章を書き下ろし、ホームページに書いてきたものに加筆修正を加えた「当用雑記」を付け足した約150ページの文庫本。重たくないけど軽くもない、梶谷さんの言葉選びを存分に味わえる1冊です。
販売価格は1650円(税込)。刊行元は、自前の出版レーベル「ケイアイ文庫」。
0 件のコメント:
コメントを投稿