2023/08/25

『オン・ザ・ドーロ』をひもとくインタビュー(PART3)

本作のアートワークは、ごぞんじ、tactsatoによるもの。

-次の「TSUKUBA DRIVING」は、「きっと誰も見過ごしてきた この景色を/ラップする 轍のない言葉で」ってリリックに尽きるね。このアルバム、というかエスプラの活動全体を包括する言葉だよね。つくばじゃないと生まれない音楽、文化に携わって生きていくっていう意思表明になっている。と勝手に思っているけど、どうだろう?

そこを突っ込んで貰えると思ってませんでした(笑)。けっこう地元ネタが多いからそう言ったほのぼのとしたことを聞かれると思ってました。

そうですね、実際に自分にとってはニュースになるような世界とか国規模の問題より、目の前の人や出来事の方が自分的には大きいと感じることが多いんです。そうじゃない感覚で世の中の出来事やニュースを捉えちゃう人は、どうしてもそういう事(世界の大きな動き)に目や感情が向かいがちで、目の前のことを小さく些細なことだと考えちゃう節があるんじゃないかな?と思う。

この町で生活していると、そう言った流れと対峙しなきゃいけない時が多くて、いつの間にか俺もそれについて真面目に考えちゃったり……とかあるんだけど、あんまり重く考えすぎるのも良くないな〜俺は俺だ!みたいな感じの曲です。結構気に入ってます。


-そっか、応えてくれてありがとう。その後に出てくる「あの夏の夜の空気 今も忘れない/Tシャツについたカストロの香り」ってラインは個人的な思い出が語られてるのかな。ここは何度聴いても、真意が分からなかったんだよね。

カストロは二輪車の2ストロークエンジンオイルのブランドです。独特な甘い匂いがあって、僕が10代のころ原チャリを乗ってた仲間で気の利いたやつはコレを使ってたんですよね。夏になると湿気も帯びて、原チャリに乗ると排気ガスの匂いが服にこびり付くんです。今時期の夏の湿った夜とか、たまーにその匂いがフラッシュバックするんですよね。あれはあれで楽しかったなぁなんて。


-なんかいい話だね。続く「Long Slow Distance Training」は横ノリできもちいい。「TSUKUBA DRIVING」と繋がるような感じもある。この曲の描写で気を使ったところはあるのかな?

あの曲は、僕の日々の習慣でランニングをしてるんですけど、それをテーマにリリックにしました。LSD(Long Slow Distance)トレーニングというランニング方法があって、それと意味合い掛けた感じです。それが、無理なく長い時間を走り切るっていうのが基本で、それ良いじゃん!てなって曲にしました。ランニングしてる間、音楽聴きながら色々と考え事して、自分にとっては良い時間なんです。

ちなみに最近は暑いんでプールで水泳してます。


-そして、いきなりのデラックス・エディション(笑)! 通常盤にしてデラックスである理由になっている2曲、これは最初からあったのかな? それともボーナス用でつくったのかな。全体の世界観とは全くズレていない曲だけれど。

本当は「Long.Slow.Distance.Training」までで終わりの予定でした。サブスクではここまでになるんで。ここで区切るとけっこうダンサブルな内容で自分的には新しい展開だなぁなんて思いつつ。ですが、ボーナスの二曲の原案の歌詞はあったのでせっかくだし入れちゃおうと2曲プラスしました。そしたらそれはそれですごくいい結果になって。CDとサブスクとの差別化も欲しかったのでCDにのみこれを入れようということで、CD版のボーナス曲にしました。この二曲あるかないかでかなりアルバムの印象変わると思うんですよね。映画のディレクターズカットみたいな感じに。

「自転車操業」は割と昔に用意していたネタで、後半にドロっと吐き出す感じに起用しました。ちょっと親には聞かせられないんでボーナスに(笑)。

「自転車操業」の源泉、ここにあり……。

-「下道」の「今日は贅沢に下道 せっかくの休みだし」って歌い出しは面白い。普通、贅沢だったら高速だよね。この矛盾と言うか、感覚のズレに聴き手も引きつけられるように思う。車という便利な道具は使いながらも、現代的な速度感には付いていかないよ! っていう感じかな。複数のSNSを常にチェックして……みたいな暮らし方へのアンチテーゼというか。

「下道」はまさしくそのワードから広げた歌詞で、あえて不便を採るって行動って、実はいい意味で贅沢だと感じることが最近多いんです。例えば、サブスクじゃなくてレコードやCDで音楽を聴いたり、ネットニュースじゃなくて雑誌や新聞を読むとか。いつの間にか何かに追って追われて、忙しく生きてる昨今だから自分はそういった時間を過ごしている時に凄く心が満たされるんです。世間はこれから仮想現実やら何やら……部屋にいてもゴーグルかけて、変なの体にペタペタ貼ってそれでリアルに近いか、それ以上の体験をできるみたいなの、俺は正直馬鹿馬鹿しいと思っているんですよね。ゲームなら分かるけど。

そんなことをコロナ時期にOctBaSSで音楽配信をしてて思ったんです。そんな技術に何万、何十億とか投資して、また忙しい日々を肯定するツールが世に出るんだなぁと。そんなんしなくても、普通に会いに行けば良いじゃん?それを見に行けば良いじゃん?それが一番早くてリアルじゃね?と思う。配信も自分なりにめちゃくちゃ頑張ってはみたけど、やっぱり現場に来て人と触れ合うのに勝てるはずがないんですよね。

やっぱり、お出かけは道中が楽しいんですよ。好きな音楽聴いたり、景色を眺めたり、家族や友達、恋人とくだらない話ししたり。

-最短距離で進むのとはちがう面白味を知ってくれる人が増えたらいい。最終曲「下道」と冒頭の「オン・ザ・ドーロ」が繋がっているとも言えるわけだね。

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