作品に触れる? 私は驚きつつも、おそるおそる彼の髪を、鼻筋を、服の皺の一本一本を、指の先でなでてみました。彫刻家の熱の跡を丹念にたどるように。そして、ちんぷな言い方ですが、文化とはこういうことだよなと思ったのです。からだから、からだへと伝わっていくもの。美しいものが、何にも遮られずに日常と地つづきで在るということ。(鈴木るみこ)
9月4日、木曜日。鈴木るみこ『ふらんすの椅子』を手にしたら、ページを繰る手を止められず、最後まで読んでしまった。上記したのは20年ぶりに訪れたフランスで偶然、彫刻家ブルーデルのアトリエ跡の美術館を見つけて、足を踏み入れる場面。「あなた、触っていいのよ。触るべきと言ってもいいくらい」と監視員のマダムに声をかけられ、オカッパ頭の少年の胸像に手を伸ばす。
それもまた人生という意味のフランス語、セ・ラ・ヴィが2度、本のなかでつぶやかれる。諦めでもなく、なげやりでもなく、嘘っぽい希望をもたらすわけでもないのに心を軽くさせる不思議な言葉。「人生はよくできていて」と語った80代後半のYさん夫妻を描いた話も、とてもいい。安直に用いがちの“暖かさ”とは異なる、温度がある。
本書に併せて、ウィリアム・I・エリオット/西原克政(訳)『谷川俊太郎を私的に語る』、佐野洋子『女の一生』も入荷。ピープル・ブックストア店頭とオンライン・ストア〈平凡〉で販売中。
今週は全日、通常営業。11時から19時まで開けています。

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