2021/11/06

10/29-11/5 本日誌

10月29日。ここ一週間ほど、少しずつ読み進めているのが長谷川郁夫『吉田健一』。二段組みで650ページ弱。折り返しをすぎて佳境に差しかかってはいるけれど、休み休み、進んでいかないと疲れてしまう。

岡本太郎さんに泡沫性があることが、実は世間に一番理解されていないところなんですよね。だから晩年には誤解された。-山下裕二(秋山祐徳太子×赤瀬川原平×山下裕二 鼎談「泡沫・日本・美術」)

その息抜きに読みはじめた、秋山祐徳太子『泡沫傑人列伝 知られざる超前衛』が痛快だった。ひとりずつの逸話が簡潔にまとめられているからか、ページをめくっていくのにストレスがない。読み進めていくほどにコクが増してくる。当時の泡沫芸術家(全身表現家?)たちが営んでいた店がいくつか、新宿ゴールデン街にあったらしい。どれもこれも滅茶苦茶で気になってしまう。

巻末の鼎談も興味深い。上記で語られる「泡沫性」を自分は理解しきれていない。時間をかけて掴んでいきたい。

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「ケンボー」と河上先生の声が鋭くなる。「句読点を無視しちゃいけないよ。そんなことしてると、おまえ、死ぬよ」「……まあ、河上さん、もうしばらく待ってください」-岡富久子「宵のひととき」(『ユリイカ』1977年12月号)

10月30日。ようやく『吉田健一』を読み終える。終盤に出てきたこのフレーズが印象的。物書きでなければ、句読点と生き死にを結びつけることはできないだろう。この追悼文が掲載されている『ユリイカ』を古書店で見つけて、買っておく。その後、だいぶ前から積読したままの『酒に呑まれた頭』を読みはじめる。

店はひま。鶴見俊輔『戦後日本の大衆文化史 1945〜1980年』を読む。

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奇妙なことに、怪我らしいものはどこにもない。靴は片っぽ素ッ飛んで、こんにゃくの冷たいのを、背中に背負っている気分だ。片っぽの腕が凍りつく程冷たいので、そこにしつこく巻きついた物を、じゃけんに外して捨てたが、翌朝考えてみると、それがその時失くした腕時計だった。-永井龍男「酒徒交伝」

10月31日。一昨日、図書館で借りてきた『作家と酒』を読みはじめる。これまでに散々と類書があったような本、わかっちゃいたけど読めてしまう。ズルい。店にはいいペースでご来店があり、本を読む時間があまりなかった。遅めの時間に来てくれた友人、太郎くんから嬉しい話を聞く。

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11月1日。夜、『作家と酒』を読み終える。さくらももこの漫画から坪内祐三、山尾三省と続くあたりからまた面白くなった。赤瀬川原平の「とりあえずビールでいいのか」は名人芸! 筆運びがリズミカル。たむらしげる「終電車」でしめるのは、洒落ている。

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11月2日。図書館で借りたもう一冊、青柳いづみこ『阿佐ヶ谷アタリデ大ザケノンダ 文士の町のいまむかし』を手にとるも、どうも馴染めない。最近とみに興味が増してきた井伏鱒二に関する話を拾いながら飛ばし読み。そう言えば、『作家と酒』に載っていた「戦後三十年総まくり文壇酒徒番附」によれば、井伏鱒二は東の横綱だった。

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11月3日。いつもよりはやく店を開けた昨日、荷物がたくさん届いた。長野県伊那市〈黒猫〉の新作、旧作をはじめ個人レーベル〈オクラ印〉の新作もほぼ同時に店に来て、慌てた。つくば市に拠点を移したフリーペーパー『DEAL』を編集する菊池崇さんが最新号を持ってきてくれたタイミングで、退院したての〈つくば食堂 花〉の植田さんがやって来た。あそこが昨日のハイライト。

ふたりは番台に座る店主の存在など眼中になく、何冊かの本を手にして会話を重ねていました。(中略)そして、一冊も買うことなく出て行きました。微笑ましくも複雑な気持ちでした。-片岡喜彦「2011年7月20日」)

遅い時間に店を片付けていて発見した、片岡喜彦『古本屋の四季』を読みはじめると、止まらない。淡々とした語り口、筆致が妙に心地よい。だけれど、小さな困惑もたしかに綴られていて、共感するところもあった。

晴天でむかえた文化の日。店では一文字も読まず。天久保一丁目にできた〈Good Near Records〉のオープニングパーティーに遊びに来た、佐藤拓人と缶ビールのんでいた。そうしながら、お客さんと色々と話す。絵描きのナツナさんも来てくれた。

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11月4日。二日酔い。今日も知り合いを中心にご来店が絶えず、めいめいと話をする。映画、選挙、音楽、催事、店舗など。今日もしっかり本を読めず。雑誌、図録をひろい読みしていた。

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11月5日。すごくひま。18時ごろまで来客なし。今朝手に取った、野見山暁治『パリ・キュリイ病院』を読む。辛い。けど、止められない。途中、途中でため息をついたり、外に出て空気を吸ってみたりしつつ、読み進める。

私のたずさえてきた本を読んで当の老人は無然として言った。「ちょうど着物のしつけ糸のように滝川老人がストーリイを追って点点と顔を出しているな。」滝川老人とは椎名其二氏のことである。-野見山暁治「あとがき」

序盤で、滝川老人が椎名其二であることに気がついた。彼の存在に繋ぎ止められてページをめくっていった。夜、寝床で読み終える。

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