一昨日の晩、なんとなく手にした阿佐田哲也『ギャンブル人生論』(角川文庫)を一息に読んでしまった。パチンコはじめ麻雀、競馬、競輪とギャンブル全般には縁遠い自分なのだが、この本をとおいものに感じなかった。とにかく、阿佐田哲也(色川武大)の他人を見る眼があたたかく、やさしいのだ。
普通、バクチ打ちを長くやっていると、仕事だからやるので、好きでやっているのではなくなる人物が多いのである。カロマスは、何十年も博打びたりに日を送ってきて、なお三度の飯よりも博打が好きであった。このところが、実にどうも、いい。
末尾の「このところが、実にどうも、いい」が、本当に、いい。カロリー軒のマスターである、通称カロマス氏への追悼文「死んで花実は咲かないが」は、ながく大事に抱えていたくなるような文章だ。
彼の生き方はむろん世間では評価されない。しかしまァ、いいじゃないか。たまにはこういう男がいて、世の中はまた楽しい。死んで花実が咲くわけではないが、カロマス、君は面白おかしく一生をすごして幸せだったね。御冥福を祈る。
こういう風に人を送り出す人、言葉に触れる機会がもうちょっとでも増えてくれれば、この重苦しい世相、社会をとりまく雰囲気も軽くなるんじゃないかな。もちろん、簡単なことではないのだけれど。数値化できない行為、人目につかない趣味や気質を持った他者への理解が肝心なのかなあと思う。
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